21時間目:労働問題

1.労働三法

 どうせ会社で働くなら、社長になって、高い給料をゲットしたいという人もいるかもしれませんが、残念ながら、世の中そんなに甘くはありません。ほとんどの人が、そんな社長に(安い給料で?)こき使われる労働者となる可能性の方が高いでしょう。

 労働者というのは雇われの身であり、雇う側である社長(使用者)に反抗したら、給料を下げられたり、クビになったりする危険性もあるという、弱い立場にあります。しかし、だからといって、労働者が不当に安い賃金で、ひどい労働環境でこき使われることがあってはいけません。そのために、日本国憲法では27,28条で労働基本権を保障しており、それらの権利の保障をさらに確実なものにするために国は、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法という、いわゆる労働三法を制定しています。

①労働基準法
 労働基準法とは、労働者がひっどい状況でこき使われることを防ぐために、労働条件の最低基準を定めた法律です。例えば次のような規定があります。
 ・労働時間は1日8時間以内、週40時間以内とし、労働者に有給休暇も保障しなければならない。
 ・児童(15歳未満)の労働の禁止
 ・未成年者の深夜労働(22時~5時)の禁止
 ・不当な解雇の禁止、解雇の予告義務

 労働基準法によると、週40時間労働、1日8時間労働が基本ですが、例外的に次のような労働形態も認められています。

 ・フレックスタイム制…必ず出社しないといけないコアタイムを決め、それ以外の時間は各労働者によって勤務時間を調整できる制度
 ・変形労働時間制…一定期間(1週間,1ヶ月,1年)の合計労働時間が週40時間を超えなければ、1日の労働時間が8時間を超えてもよいことにする制度
 ・裁量労働制…特殊な仕事をしている場合、既定の労働時間に達していなくても、その時間だけ働いたとみなされる制度

 例えば、手術をしている医者や、政治家に張り付いている新聞記者が、労働時間が過ぎたからと言って、仕事の途中で帰宅するなんて無理です。あるいは研究職やデザインの仕事は、職場にずっとこもっているよりも、外や家で気分転換している時間のほうがむしろいいアイデアが出て、仕事がはかどることもあるでしょう。むしろそのような仕事は、職場に8時間拘束することのほうが効率が悪いこともあります

●最低賃金法
 労働基準法には、「賃金の最低基準に関しては、最低賃金法定めるところによる」という規定があります。この規定に基づき制定された最低賃金法により、道府県ごとの最低賃金が定められています。ちなみに愛媛県で大学時代を過ごした私は、当時時給600円でアルバイトをしていたところ、東京の大学に通う友人が時給の低さに驚いたのを覚えています。ちなみに、2021年の最低賃金法に基づく最低賃金では、東京都が時給1041円なのに対し、愛媛県が821円です。とは言っても、愛媛県は東京よりも物価が安いので、時給が安くても生活が苦しい実感はあまりなかったですね。

●就業規則と労働協約
 労働基準法には、「就業規則は、労働協約に反してはならない」という規定もあります。その会社の仕事上のルールは就業規則として、労働基準法に違反しない限り、使用者(社長)が自由に作ることができます。しかし、それ以外に労働組合が使用者と相談して労働協約というルールを作ることができます。この労働協約を作ることにより、使用者がもしひっどい内容の就業規則を作っていたとしても、労働協約によって無効にすることができます。

●ショップ制
 また、労働協約には、労働組合と企業の関係を規定するためのルールであるショップ制が規定されることが多いです。ショップ制には以下のようなものがあります。

 ・クローズド・ショップ…労働組合の組合員の中から企業が雇用することを義務付ける。
 ・ユニオン・ショップ…企業に雇用された者は、労働組合への加入が義務付けられる。
 ・オープン・ショップ…企業に雇用された者の労働組合への加入・不加入は自由。

 日本の企業のほとんどが、ユニオン・ショップか、オープン・ショップを採用しています。むしろ、クローズド・ショップというのが理解できない人が多いのではないでしょうか? 

 日本の労働組合のほとんどが企業ごとで労働組合を作る企業別労働組合として活動するのがほとんどです。それに対し、欧米には、同じ産業で働く労働者たちが、企業の枠を超えて労働組合を作る産業別労働組合の活動が盛んな国もあります。それらの国では、自動車会社で働きたい人は、自動車産業労働組合にまずは加入し、組合員になったあと、自動車会社に採用されるというパターンもあるわけです。これがいわゆるクローズド・ショップです。

●労働基準局・労働基準監督署
 このように、労働基準法には、社長が労働者をこき使うのを防ぐための規定がたくさんあります。しかし、残念ながら、これらの規定を破る社長も多いため、これらの基準を企業が守っているかどうかを国の機関である労働基準局や、都道府県に設置される労働基準監督署が監視しています。というわけで、もしみんなが将来、社長にひどい扱いをされたら、これらの機関に訴えてみてください。

②労働組合法
 日本国憲法で保障された労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を確実なものとするため、労働組合の結成を認め、その活動が活発になるために制定されたのが労働組合法です。労働者1人1人は弱い存在ですが、弱い労働者たちが団結して労働組合を作れば、使用者と対等の立場で戦うことができます。

 労働組合は、労働者の権利を守るために認められた重要な組織といえるでしょう。しかし、労働組合法成立直後は50%を越えていた労働組合組織率は、若者の労働組合離れが進む中、どんどん低下し、2019年には16.7%まで下がってしまい、日本の若者のほとんどが労働組合に入っていない状態です。

●不当労働行為の禁止
 団結した労働組合が、給料の値上げなどを要求し団体交渉してくるのは、社長としてはあまりうれしいことではありません。ですので使用者からすると労働組合の活動は妨害したいところなのですが、使用者による労働組合の妨害行為不当労働行為として、労働組合法で禁止されています。例えば、以下のようなことが禁止されています。

 ・労働組合に入った人をクビにする
 ・労働組合に入らないことを条件に採用する。(=黄犬契約
 ・労働組合の活動資金を使用者が援助する

 3つめの「労働組合の活動資金を使用者が援助する」というのは、労働組合の活動を活発にするためには、むしろいいことのような気がします。しかし、使用者が労働組合にお金を提供し、使用者に恩ができてしまうと、労働組合は使用者に意見を言いにくくなってしまいます。労働組合の活動を活発にするためには、むしろ使用者との結びつきを弱める必要もあるのです。

●労働委員会
 また、労働組合法には、労働組合と使用者のケンカである労働争議が発生した時、ケンカの仲裁をする労働委員会を設置することになりました。労働委員会は、使用者団体の推薦により選ばれた使用者委員と、労働組合から推薦された労働者委員と、公共の利益を代表する公益委員の三者で構成され、都道府県ごとに設置されています。また、国の機関としては中央労働委員会も設置されています。
 そして、この労働委員会の役割について定めているのが、労働三法の3つめ、労働関係調整法です。

③労働関係調整法
 労働関係調整法とは、労働組合と使用者の関係をうまく調整し、労働組合と使用者のケンカである労働争議を防ぎ、ケンカがひどい時には労働委員会がどのようにケンカを仲裁するかを定めた法律です。

●争議行為
 まず、この法律により、労働組合と使用者が戦う手段としての争議行為を定めています。争議行為には以下のようなものがあります。

 ・ストライキ…労働者たちがみんなで仕事を休む。
 ・サボタージュ…労働者たちが仕事をわざとゆっくりやる。
 ・ピケッティング…労働者たちが会社の入り口に陣取って、誰も入れなくする。
 ・ロックアウト…使用者が会社を閉鎖し、労働者たちが入れなくする。

 会社を休んだり、仕事をダラダラとやったり、子どもたちから見ると「大人たちはいったい何をやっているのだ?」と思うかもしれません。私も高校時代、JRのストライキにより電車の運行数が減らされ、JRのせいでお金を払って申し込んだ私大模試の時間に間に合わず、迷惑した経験があります。しかし、逆に言えば、一見大人げなさそうなこのような行為を認めてあげないと、労働者たちは権利を主張することができないということです。また、使用者のほうにもロックアウトという争議行為を認めることにより、クビなどのえげつない報復行為をせずに済むという効果もあります。

●斡旋・調停・仲裁
 争議行為を使うことにより、労働組合と使用者は合法的に意見を主張しながら戦うことができるのですが、残念ながら、労働組合と使用者がお互い譲らず、ストライキが長々と続くなど、対立が泥沼化することもあります。そんなとき、両者を仲直りさせ、労働争議を解決するために設置されているのが、労働委員会です。そんな労働委員会による解決方法が労働関係調整法に規定されています。

・初級編:斡旋・・・労働委員会が指名した斡旋員が労働組合と使用者両方の話を聞いて、労働組合と使用者が自分たちの力で問題を解決できるように仲をとりもつ。
・中級編:調停・・・労働委員会・労働組合・使用者の三者で調停案を作り、労働者と使用者代表に調停案に調印させることによって解決する。
・上級編:仲裁・・・労働委員会が設置した仲裁委員会が裁判を行い、その決定に労働組合・使用者を強制的に従わせる。

 できたら斡旋、せめて調停で、平和的に問題を解決したいところですが、使用者、労働組合ともお互いに譲らず、問題が泥沼化すると、裁判で問題を解決する仲裁を行わなければならない場合もあります。ただ、日本人は基本的に争いごとを好まないのと、斡旋員の方が優秀なこともあるので、ほぼ斡旋で問題が解決する場合が多いようです。

 その他に、国民生活に多大な損害を与える疑いのある争議行為だと内閣総理大臣が判断すれば、内閣総理大臣に命令により争議行為を50日間禁止することができる緊急調整というのもあります。団体行動権が認められていない公務員はストライキなどの争議行為を行えないので適用外ですが、例えば、電気を供給する電力会社や、国民の命を助けるお医者さん、看護師さんたちが長期のストライキを行ってしまうと、国民の生活や命が危険にさらされる危険性があるので、これらの人たちが長期のストライキを行うと、緊急調整が実施される可能性があると思ってください。

2.労働問題の歴史

年号 事件 内容
1811 ラッダイト運動 ・生産用機械の導入により、職を失うことを恐れたイギリスの労働者による機械打ちこわし運動
1833 工場法 ・イギリスで成立した、労働者を保護する法律
1838 チャーチスト運動 ・イギリスの労働者による参政権獲得運動
1864 第1インターナショナル ・ドイツの社会主義者マルクスの指導の下、結成された、労働組合の世界的組織
1919 ILO(国際労機関) ・国際連盟に設置された、世界規模で労働問題に取り組む国際機関
1935 ワグナー法 ・アメリカで、ニューディール政策の一環として制定された、労働者に団結権と団体交渉権を認めた法律
1947 タフト・ハートレー法 ・アメリカで、ワグナー法を大幅改正して制定された、労働組合を弾圧するための法律


 1811年にイギリスで起ったラッダイト運動が世界初の本格的な労働争議だと言われています。世界に先駆けて産業革命が起こったイギリスでは、最新式の生産用機械が導入されることにより、労働者の代わりに生産用機械が作業を行うようになったため、多くの労働者が解雇され、職を失っていきました。その結果、職を失った労働者たちは団結して、自分たちの職を奪った憎っくき生産用機械をぶち壊して回ります。この運動によって、弱い立場であった労働者たちが初めて本格的に団結して使用者たちと戦い、労働者の権利を訴えました。

 その後、労働者の権利の大切さと、労働者が団結したときの恐ろしさをイギリス政府も痛感し、1833年には労働者の権利を保護するために工場法が制定されました。この法律は労働者の権利を保障した世界初の法律でした。

 工場法という法律を勝ち取り、さらに勢いを増した労働者たちが次に要求したのが選挙権(参政権)でした。それまでのイギリスは一部の金持ちしか選挙権は与えられていなかったのですが、貧しい労働者たちも選挙権を求め、団結して政府に要求するようになります。1838年ごろから起こったこの一連の運動をチャーチスト運動といいます。イギリス中の労働者を巻き込んだ大きな運動となったにも関わらず、労働者が選挙権を価値労までは至りませんでしたが、労働者のパワーを見せつける効果が十分あった運動でした。

 国際的な労働運動を見ると、1864年にはドイツの社会主義者マルクスの指導のもと、労働組合の世界的組織である第1インターナショナルが設立され、この動きは世界中の労働者を団結させただけでなく、使用者を打倒し、労働者たちが支配する国である社会主義国を建国しようとする動きにもつながり、1917年のロシア革命により、世界初の社会主義国であるソ連も誕生しました。

 そして1919年には、国際連盟の中にILO(国際労働機関)世界規模で労働問題の解決に取り組む機関として設置され、ILOは現在は国際連合の専門機関として、労働問題の解決のために活動しています。

3.三大雇用慣行の崩壊

 日本の高度経済成長期を可能にした要因として、日本の企業のほとんどが三大雇用慣行を採用していたという点があると言われています。三大雇用慣行とは、

終身雇用制・・・企業が労働者を定年(現在はほとんどの企業で60歳)まで雇用し続けることを約束する制度
年功序列型賃金・・・同じ企業に長く勤めれば勤めるだけ賃金や地位が上がっていく制度
企業別労働組合・・・企業ごとに作られて活動する労働組合。

の3つです。これらは、別に国が定めた法律ではなく、日本の企業が勝手に採用してきた慣行(ならわし)に過ぎないのですが、これらの慣行が結果的に、高度経済成長を支えたと言われています。

 終身雇用制年功序列型賃金のおかげで、労働者は一度会社に就職してしまうと、定年まではクビになることがないので、安心して生活を送ることができました。さらに、企業側としても、長期的に社員を確保し、育てることによって、自分の会社に忠実な「企業戦士」を育てていくことにも成功しました。

 また、欧米で盛んな産業別労働組合だと、企業の枠を超えた労働者たちが団結し、業界全体の使用者に対して権利を主張するため、活動が大規模になり、使用者グループという巨大な敵に対し、戦いを挑む構図になりますが、日本のような企業別労働組合だと、活動が小規模になるだけでなく、普段お世話になっている社長に反抗するのは申し訳ない気持ちにもなり、活動は消極的になりがちです。

 日本にも欧米ほど大規模ではないですが産業別労働組合があります。また、そんな産業別労働組合を含めた全国の労働組合をまとめる全国的な労働組合組織のことをナショナルセンターと言うのですが、日本のナショナルセンターとして、日本労働組合総連合会(連合)全国労働組合総連合(全労連)、全国労働組合連絡評議会(全労協)が有名です。これらは、政党に政策を提案し、選挙の際には組織票を提供する圧力団体として有名なのですが、労働組合としての活動は欧米のナショナルセンターほど盛んではありません。

 日本人は真面目な人が多かったこともあり、終身雇用制、年功序列型賃金によって、雇用と生活を保障されたことに恩を感じた多くの社員たちは、会社に家族のようなつながりを感じ、彼らが会社のために一生懸命働いたことにより、高度経済成長が実現しました。
 しかしなかには、仕事を一生懸命しなくても給料が上がり、定年まではクビにならないことに安心し、あまり働かない社員も出てしまいました。彼らのことを「窓際族」と言います。

 景気がいいときには、 窓際族はそんなに問題にはなりませんでしたが、1990年代にバブルがはじけ、各企業が深刻な不景気に苦しむようになると、企業は経営の効率化をはかるリストラクチャリング(リストラ)に取り掛かります。その結果、各企業は、終身雇用制や年功序列型賃金の見直しを行い、窓際族は次々とクビを切られていきました。特に、年功序列型賃金により給料が高くなっていた定年間際の中高年労働者が大量にクビを切られることが問題になりました。

 その後、大企業や新興企業を中心に、能力給年棒制など、年齢に関係なくその人の能力や活躍に応じて、給料を決定する企業も増えてきます。まさに、仕事も弱肉強食の時代になったということです。

 私自身、年功序列型賃金の職場(学校)と、能力給の職場(学校)、両方で仕事を経験しました。確かに、職場で自分の仕事が評価され、給料が上がるとうれしいにはうれしいのですが、結局は、評価を行う校長先生の周りで目立つ仕事をし、校長先生に気に入られた人が給料や地位が上がる傾向があり、校長先生の知らないところで生徒のために地道に頑張る先生の評価が低いなど、評価が正しいのか疑問を持つことが良くありました。
 しかし、校長先生からしても、成果が金額に反映されない先生たちを正しく評価して、適切に給料を振り分け、先生たちのやる気を引き出すのは難しいことだと思います。

 結局私は公立学校の先生に落ち着きましたが、どちらかというと、私立学校にいる時よりも一生懸命働いているような気がします。もちろん、今は家庭を持っていることもあり、若いころより仕事に打ち込む時間は減りましたが、授業や学問の面白さを知れば知るほど、新しいアイデアが出てきて、授業をより良いものにしていくという仕事の面白さは、年々強く感じるようになってきています。

 結局、仕事をするうえでお金を重視している人と言うのは、本当に生活に困っている人を除けば少数なのではないかとおもいます。そう考えると、多くの社員が求めているのは、お金ではなく、達成感であるような気がします。なので、優秀な人材を求める多くの企業が、 能力給や年俸制をやめ、終身雇用制・年功序列型賃金に戻しているという話もうなずけるような気がします。

4.女性労働者

 日本の職場には未だに「男は仕事、女は家庭」といった古い考えが強いようです。その結果、、日本の女性労働者は、就職しても出産や結婚などを理由に、途中で退職してしまう可能性があるため、企業は女性労働者の採用や昇進に消極的であるという傾向があります。しかし、能力的に劣っているわけでもなく、働く意思を持っている女性労働者を、採用や昇進で男性労働者と差をつけるのはどう考えても差別です。しかも、日本の職場が、女性労働者の力を発揮させることができていないことは、日本経済にとっても損失です。よって日本でもそんな職場における男女差別を解消するため、次のような対策を行ってきました。

年号 事件 内容
1985 男女雇用機会均等法 ・国連の女子差別撤廃条約批准をきっかけに、職場における男女差別をなくすことを目標として制定。
1993 パートタイム労働法 ・パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者(非正規社員)とフルタイム労働者(正規社員)の労働条件の格差解消を目指す。
1997 男女雇用機会均等法
改正
・企業におけるセクハラの防止をを、努力義務から措置義務に変更。
・指導に従わなかった企業名を公表。
1997 労働基準法改正 ・それまで禁止されていた、女性の深夜労働・祝日労働・時間外労働を解禁
1999 育児・介護休業法 男女両方の労働者に、育児・介護目的のために一時的に会社を休めるようにする。
・休業中の所得の一部を雇用保険から保障
2006 男女雇用機会均等法
改正
・表面上は男女差別とは無関係に見えながら実際には差別に当たる間接差別も禁止。
2015 女性活躍推進法 ・企業や国、自治体に女性管理職や女性採用比率の数値目標の設定、女性活用の行動計画の策定などを義務付ける。

●男女雇用機会均等法(1985年)
 2時間目:世界の政治でも扱いましたが、1985年に国連の女子差別撤廃条約を日本が批准したことをきっかけに、男女雇用機会均等法が制定され、これにより職場における男女差別をなくしていく政策がスタートします。

●パートタイム労働法(1993年)
 1993年にはパートタイム労働法が制定され、パートタイムやアルバイト、契約社員などの短時間労働者(非正規社員)とフルタイム労働者(正規社員)の労働条件の格差を少なくすることが目指されます。とくに、非正規社員には女性労働者が多い(3分の2が女性)ため、非正規社員の労働条件を改善することは女性労働者の労働条件を改善することにもつながるのです。

●男女雇用機会均等法改正・労働基準法改正(1997年)
 1997年に男女雇用機会均等法が改正されて、パワーアップします。それまでの男女雇用機会均等法には、男女差別をした企業に対しての罰則規定がなかったため、差別撤廃効果も薄い内容だったのですが、このときの改正により、この法律に違反し、改善指導にも従わなかったた企業は企業名を公表するなどの規定が盛り込まれました。また、このころから男女差別の問題として大きく取り上げられるようになった企業のセクシャルハラスメント(セクハラ)の防止が、努力義務から措置義務に格上げされました。

 そして、同時に労働基準法も改正され、それまで女性は未成年と同じく深夜労働(22時~5時)が禁止されていたのですが、深夜労働ができないことが女性の就職の可能性をせばめていたため、この規定は撤廃され、女性の深夜労働、祝日労働、時間外労働が認められるようになりました。

●育児・介護休業法(1999年)
 そして、1999年には育児・介護休業法が制定され、女性労働者だけでなく、男性労働者も育児、介護のために一時的に会社を休むことができるようにしました。このような休暇の申し出を企業は断ることができず、休職中も国が運営する雇用保険(失業保険)の中から、いくらかの給付金が支給されます。この頃から、育児は女の仕事でないことが主張され、イクメンという言葉も流行するようになりました。

●男女雇用機会均等法改正(2006年)
 2006年の男女雇用機会均等法改正では、表面上は男女差別とは無関係には見えながら実際には差別に当たる間接差別も禁止されました。例えば、採用条件に、「身長〇cm以上、体重〇㎏以下、力仕事あり」のような条件を付けると、「女禁止」と書いてなくても、必然的に女性が採用されにくくなります。企業によってはこのような姑息な方法で女性差別を続けるところもあったため、このような規定が盛り込まれました。

 このような政策を政府が実施しているにもかかわらず、その効果はイマイチ現れていません。次のグラフを見てください。

 上のグラフは、男女別で年代ごとにどれぐらいの割合の人たちが働いているかを示した年齢階級別労働力率のグラフです。このグラフを見ると、男性労働者は、高校、大学を卒業する辺りから就業者数が少しずつ増え、20代中盤から90%以上が就職している状態となり、定年を迎える60歳あたりで減少していくという逆U字型のグラフになるのですが、女性労働者の場合は、結婚や出産をきっかけに25~35歳あたりで仕事を辞め、子どもがある程度大きくなった35~50歳あたりから、子供の高い学費を稼ぐためにパートタイムなどで再び働く人が増えるというM字型のグラフになります。しかし、先進国の中で、女性の労働力率のグラフがM字型となるのは日本や韓国ぐらいで、欧米では、女性も男性も逆U字型となるのが普通です。

 日本では、育児休暇を取りたくても「会社の他の人たちに迷惑がかかってしまう」と言ったプレッシャーなどから、迷惑をかけるよりも退職を選ぶ女性がまだまだ多いようです。また、男性が育休を取ろうとしても「男のくせに育休を取るなんて」と思われているようなプレッシャーもあるように思います。その結果、福祉大国スウェーデンでは、働くお母さんの85%、お父さんの80%が育児休暇を取っているのに対し、日本ではお母さんが82%、お父さんがなんと6%としか、育児休暇を取っていない悲惨な状態です。

 子育てと仕事を両立させるためには、子供を預かってくれる保育所・託児所の整備が必要ですが、保育所に入りたくても入ることのできな待機児童の問題もまだ解決されていません。

 実際に、「男は仕事、女は家庭」であった昔と違い、今は女性もしっかり働いてもらわないと経済が回らない状態です。さらに、子どもを育てるためにかかる学費なども高騰し、共働きでない家庭を探すほうが難しい時代です。その結果、働くお母さんが増え、職場では男女が協働して仕事に取り組む環境が生まれつつありますが、残念ながら家庭での男女協働が、まだまだ進んでいないような気がします。

 その結果、「男は仕事、女は家庭と仕事」となり、ますますお母さんたちの負担が増してしまっている状態です。そんな母親であることがつらい時代であれば、子どもなんてたくさん生まれるわけありません。問題を考えれば、考えるほど、この日本の古くさい考えが早く消滅することを願います。

5.その他の労働問題
●長時間労働
 そのほかの日本の労働問題として挙げられるのは、働きすぎの問題です。年間総労働時間を比較すると、フランスが1476時間、ドイツが1413時間であるのに対し、日本は1735時間も働いています。アメリカの1787時間と比較すると少なく、1980年代の日本の平均労働時間が約2100時間だったことを考えるとかなりマシになりましたが、労働時間が減った一番の理由は、バブル崩壊後、パート、アルバイトなどの短時間労働者が激増したことにあります。ですので、男性のフルタイム労働者の労働時間は今も世界一だといわれていますし、女性労働者は労働時間が少ない代わりに家事の時間が極端に多いという状態です。

 その結果、日本では、残業手当が出るわけでもないのに勤務時間後も働くサービス残業が常態化し、働きすぎのために過労死してしまう人がいるという、世界的にも「おかしい民族だ」と思われています。

 働きすぎが問題になっているにもかかわらず、現在もブラック企業、ブラックバイトのように、社員に長時間労働、違法労働を強制する企業は後を絶ちません。また、そんな状況に絶望し、命を落とす若者も後を絶ちません。

 私も若かりし頃は、毎日夜10時過ぎまでサービス残業で働く熱血教師でしたが、ニュージーランドで、15時過ぎには生徒と一緒に先生も帰宅するというゆる~い学校で半年間働いた結果、長時間働くだけがいい先生ではないという考えに改めることができました。

 そうは言っても、年配の先生がまだ職員室に残っているのに、先に家に帰るというのは今も抵抗があります。そんな時は「オレはしっかりいい授業を作るための仕事をしている」「家に帰っても家事というもっと大事な仕事がある」などとと言い聞かせ、最近は19時ぐらいには帰ることができるようになりました(とは言っても本来の勤務終了時間は17時)。

 仕事に生きがい、やりがいを感じることは素晴らしいことですが、仕事が人生のすべてではありません。ですので、みなさんも、仕事を頑張りながらも、家族や友人、そして自分の時間を大事にするワークライフバランスを大事にしてほしいと思います。

●失業問題
 バブル絶頂期に約1%だった完全失業率は、2002年に5.4%まで上昇し、最近では2~3%を推移しています。失業率が低いことは素晴らしいことなのですが、失業率が低下した理由の一つとして、パート、アルバイト、派遣労働者などの非正規社員が増えたことがあります。

 2002年は正規社員が70.6%、非正規社員が29.4%という割合でしたが、2004年に労働者派遣事業法が改正され、派遣労働者(=派遣会社に雇われ、派遣先企業の指揮命令で働く労働者)が増えたあたりから、非正規社員が激増し、2020年には正規社員62.8%、非正規社員37.2%となりました。

 失業者が少なくなるということは喜ばしいことなのですが、非正規社員が増えることにより、仕事があるにもかかわらず、収入が不十分で貧しいというワーキング・プアも発生してしまっています。

 失業率が低下しているにもかかわらず、現在も失業している人たちの中でも半分近くが、就学も仕事もしない若者であるニートであるとも言われています。あるいは、就業していてもアルバイトで生計を立て、定職に就かずに生活が不安定フリーターも数多くいます。例えば、お笑い芸人になるという目的を持ち、夢を実現する過程で、生活費を稼ぐためにフリーターをやっているというのならいいのですが、若者の中には、仕事や人生にやりがいや生きがいを見いだせず、何気なくフリーターやニートになってしまっている人も多くいるようです。

 そんな若者たちに、自分に合った仕事を見つけるための情報やサービスを提供するジョブカフェというものも都道府県に設置されるようになりましたが、勉強だけでなく、人生や働くことへの意味や意義を教えるのが私たち教員の仕事です。そう考えると、これだけフリーターやニートが増えてしまったのは、我々教員の責任とも思えて悲しくなります。ほんとすみません。

●障害者雇用
 障害者雇用促進法により、国・地方自治体では全従業員の2.3%以上、民間企業では2.0%以上の障害者の雇用が法定雇用率として定められています。本来、 人々は平等に扱われないといけませんが、このように、かわいそうな人たちをあえてひいきすることにより、格差を小さくしようとする措置のことをアファーマティブ・アクション(積極的是正措置、ポジティブ・アクション)と言い、アファーマティブ・アクションに基づいて、一定の採用枠を特定の人たちに指定する制度のことをクォータ制といいます。

 私の職場でも、目の不自由な方が事務員として働いておられますが、お願いした仕事を確実にしてくださるので助かっています。しかし、実際には障害者を雇用していない企業も給付金を支払えば許してもらえるので、まだまだ障害者を雇用していない企業も多いようです。

 アメリカのある大学では、黒人の受験生の合格得点を低く設定したり、EUでは、女性の管理職を40%以上にすることを目標にするなどのアファーマティブ・アクションが実施されています。ですので私は、日本でもアファーマティブ・アクションを実施して、女性の管理職(社長などの重役)を増やす必要があると思います。

 日本の職場が、女性労働者に対して冷たい原因の一つとして、管理職のほとんどが男性であることがあります。彼らのほとんどが、育児を経験しておらず、子育ての大変さを理解してくれません。しかし、管理職の多くに、子育て経験のある女性が就任すると、子育てのために早く退社するお母さんや、子育てに関わり妻の負担を和らげようとするお父さんに対する理解があり、仕事と家庭を両立し、社員が生き生きと働ける職場が作られるような気もします。

 「女性といっても色んな人がいるので、女性の管理職が就任するだけでそんなにうまくいくわけない」という意見もあるかもしれません。しかし、日本の職場はあまりにも変わらない状態が長く続きすぎていると思います。現状を変えるために、どうでしょうか? これを読んでいる女性のみなさん、まずみなさんがかっこいい女社長を目指してみては?

 

2022年1月15日