24時間目:国際経済の課題

1.日米貿易摩擦
 世界で貿易が盛んになるとトラブルも発生します。そんな日本の貿易トラブルとして有名なのが、1980年代の日米貿易摩擦です。日本は戦争による荒廃から復興するに従い、安くて性能のいい繊維、鉄鋼、テレビ、自動車、半導体、携帯電話などをアメリカに売り、かなりの利益を得ることができました。しかし、日本がアメリカに商品を売って貿易黒字国になったのに対し、アメリカは日本から大量の商品を買うものの、日本に対してそんなに商品を売ることができず、貿易赤字国になってしまいました。「貿易収支の黒字は失業の輸出」という言葉もあるように、アメリカ国内で日本製品が売れることにより、アメリカ製品は売れなくなり、アメリカ企業が倒産、アメリカ人労働者が失業に追い込まれる事態も発生し、アメリカでは日本を批判する運動であるジャパン・バッシングも発生します。

 ジャパン・バッシングといえば、私たちの世代ではアメリカ人労働者がアメリカ国内で日本のトヨタ自動車をハンマーでたたき壊すニュース映像が有名です。そんな日本を批判するアメリカに対し、日本は当初、輸出自主規制で対応します。輸出自主規制とは、アメリカに対する輸出を自主的に控えることであり、これにより日本はアメリカの怒りを鎮めようとはしたのですが、それでもアメリカの貿易赤字は増える一方だったので、怒ったアメリカはとうとうスーパー301条を適用します。

 スーパー301条とは、アメリカの通商法301条の規定を改正して強力にしたルールで、「この法律により卑怯な貿易をする国と認定された国は、期限までに状況を改善しないと関税を値上げされるなどの制裁を加えられる」という内容です。このルールに従って卑怯な国と認定されてしまった日本は、もしアメリカの要求を受け入れないと、日本製品をアメリカで売ろうとする場合100%の関税がかけられることとなります。例えば、日本国内で100万円で売られているトヨタ自動車をアメリカで売ろうとしたら、100%の関税をかけられると100万円の税金がかかり、税金を上乗せした200万円で販売しないといけなくなります。言いかえれば「日本製品をアメリカ国内で売れにくくしてしまう」のがこのルールです。1989年にアメリカはこのスーパー301条を議会で成立させ、日本に対して脅しをかけてきました。

 日本製品がアメリカで売れなくなってしまったら大変です。その結果、1989年から日米構造協議が始まりました。この会議で日本がスーパー301条を中止するようにアメリカ側にお願いしたところ、アメリカが出した条件は「アメリカの企業が日本で商品を売りやすい環境を整えろ!」というものでした。具体的には、独占禁止法を強化することによって、日本企業の系列企業間での取引を排除し、アメリカ企業が進出しやすくしました。さらに大規模小売店舗法を改正し、アメリカのお店が日本に出店しやすくしました。これにより、アメリカの大型玩具デパート「トイザらス」などが進出してきたのは20時間目:経済諸問題のところで触れたとおりです。

 1993年になってからは日米包括経済協議が始まります。この会議の中でアメリカは、「日本がどれだけのアメリカ製品を買うか数値目標を設定しろ!」と求めてきて、要求が受け入れられない時のためにスーパー301条の復活もちらつかせてきました。

 個人的な意見を言わせてもらうと、日本製品がアメリカ製品よりも売れるということは、日本製品がアメリカ製品よりも安くて性能のいい商品ということであり、日本でアメリカ製品を売るためには、アメリカ側ももっと努力をする必要があると思います。例えば、アメリカは日本人がアメリカの車を買わないことを怒っていましたが、はっきりいってアメリカの車は日本の狭い道を運転するには、大きすぎて不便だし、アメリカ車のハンドルは左ハンドルなので、左側通行の日本の道路を運転するのは不便なのです。それに対して日本でもけっこう車を売ることに成功しているドイツのベンツなんかはちゃんと日本へ輸出する車は右ハンドルにして販売していました。なので、アメリカ製品が日本で売れないのを一方的に日本のせいにするのは間違っていると思います。

 このような理由から、日米包括経済協議の話し合いは日本側もなかなか譲らず難航しましたが、スーパー301条が復活して一番困るのは日本企業なので、この時は日本企業が積極的にアメリカ製品を買う量を示し、協力してくれたこともあり、アメリカ側も少しずつ怒りを鎮めてくれました。しかし、これ以降アメリカの怒りが静まった一番の理由は、アメリカの貿易問題の最大の敵が、日本から中国に代わっていったことがあるでしょう。

 ですので、あのトランプ大統領が、貿易問題で中国とバトルを繰り広げていた時も、日本に対してはそこまで厳しいことは言ってきませんでした。逆に言えば、アメリカと中国の貿易問題が落ち着くか、あるいはアメリカが中国との貿易戦争に負けるなんてことがあれば、再び批判の先が日本に向けられることもあるかもしれません。

2.地域統合
 最近は、仲のよい国が集まって仲良しグループを作り、貿易を盛んにしようとする地域統合の動きが盛んです。主なものを以下にまとめます。

EU
(ヨーロッパ連合)
ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、アイルランド、デンマーク、スペイン、ポルトガル、ギリシア、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、リトアニア、ラトビア、エストニア、チェコ、スロバキア、スロベニア、ハンガリー、ポーランド、マルタ、キプロス、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア(27ヶ国)
ASEAN
(東南アジア諸国連合)
タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー(10ヶ国)
USMCA
(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)
アメリカ、メキシコ、カナダ(3ヶ国)
MERCOSUR
(南アメリカ共同市場)
ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ボリビア(5ヶ国)


 この中で最も重要なのがやはりEU(ヨーロッパ連合)です。その他では、東南アジアのASEANや、アメリカを中心としたUSMCA、南アメリカのMERCOSUR(メルコスール)なんかが、けっこう頑張っています。

 地域統合の一番の目的は経済統合です。経済統合とは、主に関税を引き下げるなどして、他地域よりも貿易を盛んにしようというものです。ほとんどの地域統合はこの経済統合を目的としたものなのですが、経済統合だけでなく政治統合も目指しているのがEUのすごい所です。

●EU(ヨーロッパ連合)
 そもそもEUは、ヨーロッパにおける平和を実現するために作られました。ヨーロッパにおける大国フランスとドイツが今まで戦ってきた原因の一つに、両国の国境付近にある石炭や鉄鉱石を奪い合っていたことがありました。そこで、フランスとドイツ(当時は西ドイツ)は、隣国のイタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクにも声をかけ、これらの国々で採れる石炭、鉄鉱石を共同管理とするためにECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)を作ります。その他にも彼らは、EEC(ヨーロッパ経済共同体)EURATOM(ヨーロッパ原子力共同体)も設立し、これらの3つの組織が統合される形でEUの前身機関EC(ヨーロッパ共同体)が誕生しました。その後、ECは、イギリス、アイルランド、デンマーク、ギリシア、スペイン、ポルトガルが加盟国して12カ国まで拡大します。

 ECの目的は基本的には経済統合でした。ECは早い段階で、加盟国間の関税の撤廃と域外共通関税の設定に成功します。つまり、EC加盟国内における商売は、まるで一つの国の中で商売をしているかのように、関税を取られることもなく販売することができ、EC加盟国以外からの輸入品もどこの国でも同じ価格で購入することができるようになりました。これにより、EC加盟国間の貿易が盛んになります。さらにECは人・モノ・サービスの自由移動も認め、EC加盟国間の人の移動も盛んになりました。

 そんなECが1993年にマーストリヒト条約を採択することによりEU(ヨーロッパ連合)にパワーアップします。EUがECと違う最大の特徴はECの時よりも政治統合の傾向が強くなったということでしょう。

 EUになることにより経済統合も加速し、2002年からは共通通貨であるユーロが流通するようになり、ユーロを発行するための中央銀行として、ECB(欧州中央銀行)がドイツに設置されました。これにより、ドイツ通貨マルクや、フランス通貨フランなどの有名な通貨が廃止されたわけですが、そんな新しい通貨にまだまだ不信感を持ったイギリスやデンマークなどは引き続き、ポンドやクローネを使い続けました。つまり、EU加盟国すべてがユーロを導入しているわけではないのです。

 また、政治統合の面では、2009年にリスボン条約を発効することにより、EU大統領(欧州理事会議長)EU上級代表(外務大臣のような存在)も設置されました。EC時代から立法権に当たる欧州議会があったのですが、それプラス、大統領や外務大臣も設置されることにより、EU加盟国は政治的にも一体感を持つようになりました。

 EUになってからも加盟国は順調に増え続けるどころか、ヨーロッパのほとんどの国がEUに加盟し、EUが拡大することによりヨーロッパから戦争がなくなったことが評価され、2012年にはEUはノーベル平和賞も受賞しました。その翌年にはクロアチアも加盟し、EUは28カ国にまで拡大したのですが、そんなEUから2020年、大国であるイギリスが脱退します。

 国民投票でイギリス人がEU脱退を選択した最大の理由は、EUに加盟することにより、大量のヨーロッパ人がイギリスに移住し、イギリス人の仕事を奪い、イギリス人の税金で福祉や援助を受けていたことでしょう。あるいは、2010年のギリシア・ショックでは、国債が暴落し破綻した同じU加盟国のギリシア政府を救うために、イギリス人の税金が使われたこともあるでしょう。

 EU加盟国が心配したのは、イギリスが脱退することにより、それに続いてEUを脱退する国がドミノ倒し的に出てきて、EU自体が崩壊するのではないかということでしたが、今のところ、そういう動きは出てきてません。しかし、イギリスをはじめ、いま世界には、自分の国の利益を優先する自国ファーストの国も増えてきていますので、ギリシア・ショックのような経済的な混乱が再び出てくれば、イギリスに続く国が出てくるかもしれません。

 EU以外である程度成功している地域統合としては、USMCA,ASEAN、MERCOSURがあります。

●USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)
 USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)は、アメリカ、メキシコ、カナダの3ヶ国による自由貿易協定で、アメリカ(USA)のUS、メキシコのM、カナダのCに協定(Agreement)のAをとってこんな名前になっています。2019年まではNAFTA(北米自由貿易協定)という名前でした。

 メキシコとカナダはアメリカと国境を接していることもあり、NAFTAによって関税の撤廃などを実現した結果、三カ国間の貿易額は大幅に増えました。しかし、NAFTAの特徴に目を付けた海外企業は、賃金の安いメキシコに生産工場を作り、メキシコで作った商品を関税なしでアメリカに売りまくったため、アメリカの大幅な貿易赤字の原因ともなりました。それに腹を立てたトランプ大統領がNAFTAを改訂し、アメリカに有利な条件に改訂して作り直したのがUSMCAです。

●ASEAN(東南アジア諸国連合)
 1967年にインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの東南アジア5カ国でスタートしたASEAN(東南アジア諸国連合)は、現在は、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアを加え10カ国まで増えました。彼らは2015年にはAEC(ASEAN経済共同体)を設立し、域内での関税をほぼ撤廃することにも成功しています。総人口で言えば、USMCA4.5億人EU4.9億人よりも多いASEAN6.5億人という巨大市場であり、成長著しい国が多い所も利点ですが、ミャンマーのような独裁国家、ベトナムのような社会主義国も抱えるなど、政治的に不安定な国が多いのが難点でるといえます。

●MERCOSUR(南アメリカ共同市場)
 MERCOSUR(南アメリカ共同市場、メルコスール)に加盟するのは、南アメリカのブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ボリビア、ベネズエラの6カ国ですが、政情不安定なベネズエラが2016年から資格停止となっており、今は5ヶ国で活動しています。加盟国内での自由貿易を目指し、ある程度成果は出ていますが、ベネズエラ以外にも政情不安定な国も多く、関税撤廃まではまだ進んでいない状態です。

3.日本の自由貿易協定
 GATTの理念を引き継いで1995年にスタートしたWTO(世界貿易機関)では、ラウンド交渉により世界共通の自由貿易ルールを作ることを目標としています。しかし、2001年から始まったWTOのドーハ・ラウンドでは、各国の思惑が衝突し、交渉はストップしてしまいました。そんな結果、世界各国は、世界全体の自由貿易は一旦あきらめ、特定の国とだけ話し合って独自の自由貿易ルールを作り、それらの国家間、地域間のみで自由貿易を実現しようとします。

 その動きの中で最も大きいものがEU、USMCA、ASEANです。日本からすると「仲のいい国々が仲良しグループを作ってうらやましい!」なんて思うところですが、そんな日本も、近年、友達を作ることに一生懸命です。それが日本のFTA、EPA政策です。

 FTA(自由貿易協定)EPA(経済連携協定)はニュースや新聞ではほぼ同じ意味で使われます。あえて違いを説明するならば、

FTA=関係国間の自由貿易(関税撤廃など)に関する協定
EPA=関係国間の自由貿易(関税撤廃など)に関する協定だけでなく、知的所有権や労働力の移動などに関する経済関連ルールも含めたもの

といった感じです。ですので、自由貿易を進めるための協定という点では同じなのですが、FTA<EPAであり、EPAのほうが内容が充実していると思ってください。

 日本は2002年のシンガポールから始まり、世界中の国や地域とEPAを結んできました。これらの国との貿易では多くの品目で関税の撤廃や引き下げに成功しています。ただし、これらの国・地域と無条件に関税がなくなったわけでなく、それぞれの国々と日本の事情を踏まえて、関税を撤廃したり、引き下げたり、そのままにしたりしているので、由貿易を進める協定といいながら、協定ごとで微妙にルールが違います

★日本とEPAを結んだ国・地域

2002 シンガポール   2011 インド
2004 メキシコ   2012 ペルー
2006 マレーシア   2014 オーストラリア
2007 チリ、タイ   2015 モンゴル
2008 フィリピン、インドネシアブルネイ、ASEAN   2018 EU
2009 スイスベトナム   2021 イギリス

 やはり、地理的に近いアジアや太平洋周辺の国々が多いのが特徴ですが、2009年にはスイス、2018年にはEU、2021年にはEUを脱退したイギリスといった風に、ヨーロッパの国々ともEPAを結ぶことに成功しています。また、2008年にフィリピン、インドネシアと結んだEPAでは、介護福祉士、看護師として、これらの国々の労働者が日本で働くことも認めました。

 日本がこのようなEPA締結に積極的になった理由として、工業国としてライバルでもある韓国が早々とEU、アメリカなどとEPAを結ぶことに成功し、関税なしでこれらの国々に工業製品を売り込むことに成功したことがあります。確かに、私が海外を放浪していたころは、多くの国の空港でパナソニック製のテレビモニターを見ることにより日本を感じて、安心した思い出がありましたが、新婚旅行で海外に行ったときは、韓国のサムソンに変わっており、時代の流れを感じました。

●TPP(環太平洋経済連携協定)
 日本にとって最大の貿易黒字国アメリカとEPAを結ぶことは大きな課題でした。そんな中、日本が目を付けたのがTPP(環太平洋経済連携協定)です。TPPとは元々、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国から始まった自由貿易を軸とした経済連携ルールを定めた協定でしたが、その後、アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、メキシコ、カナダと順調に参加国を増やしていきました。そんな中、日本もTPPに参加することにします。日本としては、この12ヶ国の間での貿易が盛んになることを望んだわけですが、一番の狙いはアメリカとの自由貿易を進めることでした。

 2015年にTPPの交渉がまとまり、多くの品目で関税の撤廃も決定します。2016年には12か国による署名も終わり、あとはTPPの発効を待つだけでしたが、そんな中、2017年にアメリカ大統領に就任したトランプは、大統領就任直後にアメリカのTPPからの脱退を宣言してしまいます。

 TPPのルールによると、アメリカなしではTPPを発効することができません。そこで、アメリカ以外の11か国は、アメリカ抜きでもう一度話し合い、アメリカが戻るまでの暫定的なルールを作りました。これがTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)です。

 TPP112018年に発効し、今は11ヶ国で自由貿易を進めながら、アメリカが戻ってくるのを待っている状態です。2020年のアメリカ大統領選挙ではトランプ大統領が落選し、TPPを進めてきたオバマ大統領とつながりの深いバイデン大統領が就任しました。よって、バイデン大統領により、アメリカがTPPに復帰することも期待されましたが、アメリカではトランプ以外にもTPP反対派が多いため、アメリカがTPPに復帰することはしばらくなさそうな気配です。

●RCEP(地域的包括的経済連携)
 もう一つ注目されているのがRCEP(地域的包括的経済連携)です。この協定には、日本ASEAN10かのほか、オーストラリア、ニュージーランド中国、韓国という15ヶ国が参加しています。残念ながら、世界第二位の人口を誇るインドが署名直前に脱退しましたが、日本にとっての重要な貿易相手国である中国と韓国ともEPAが結ばれたことに注目です。そうは言っても、関税が撤廃された品目はTPPやその他のEPAと比較するとかなり少ないので、そこまで強固なEPAではないといえます。

●APEC(アジア太平洋経済協力会議)
 TPP,RCEP以外に日本はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)にも参加しています。APECは、アジアと太平洋周辺の21の国と地域(日本、韓国、中国、香港、台湾、アメリカ、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ロシア、ペルー、チリ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、ニュージーランド、オーストラリア)が参加しています。メンバーを見ると、アメリカ、中国、ロシアなど大国がかなり参加しており、充実していますが、あくまで経済協力がメインであり、関税撤廃などの自由貿易が実現するまでには至っていません。そもそも、近年、TPPやRCEPの登場により、すっかり影が薄くなってしまっているのがAPECです。

4.南北問題
 世界には、金持ちな先進国と貧しい発展途上国の間の格差の問題でが存在します。日本、アメリカ、ヨーロッパ各国など先進国は北半球に多く、アフリカや南アメリカ諸国などの発展途上国は南半球に多いので、両者の格差の問題のことを南北問題と言います。

 もちろん日本国内にも貧富の差は存在しますが、特にアフリカ、アジアには日本人が想像を絶するような貧しい国が多数存在し、想像を絶するような貧しい生活を送っています。食事は1日1食で、トウモロコシや豆などの主食と野菜だけで肉なんてめったに食べれない。家はトタンの屋根の簡素なもので、子どもが多くて、布団はなく、床の上に家族が重なって寝る。トイレは外に穴を掘っただけのもので、下水道なんてないから、不衛生なトイレから伝染病が蔓延するけど、病院なんて高くて行けない。そもそも病院に行くという発想すらない。

 日本の平均寿命は世界1位の84歳ですが、アフリカ諸国の平均寿命は60歳前後です。また、世界最高水準の医療技術を持った日本では、乳児死亡率が1.8%ですが、アフリカでは60%を超える国がたくさんあります。

 また、国連機関WHO(世界保健機関)の調査によると、エイズの全国民の感染率が20%を超える国も多数存在しており、このような伝染病の感染拡大の予防も発展途上国における大きな問題となっています。

 現在世界には約10億人の栄養不足人口がいると言われていますが、計算上は、現在世界で生産されている食料だけで、全人類に十分な栄養を採らせることができます。しかし、実際には、アジア、アフリカの貧しい子供たちに食べさせるべきである穀物が、先進国の金持ちたちが食べる牛肉や豚肉を生産するための家畜のえさとして使われていたり、日本などの先進国で大量の食料が廃棄されているなど、ここでも先進国と発展途上校との格差が、貧富の差を拡大させています。

●累積債務問題
 発展途上国の中には累積債務問題に苦しむ国も多いです。累積債務問題とは、発展途上国が自国を経済発展(特に工業化)するために先進国などから借りたお金が返せなくなって苦しむ問題です。1980年代には、メキシコブラジルなどがアメリカなどから借りたお金が返せない累積債務問題に苦しみましたが、近年では、アジアやアフリカの国々が中国から借りたお金が返せない累積債務問題が深刻化しつつあります。

●DAC(開発援助委員会)
 そんな発展途上国を助けていこうとする動きもあります。まず1961年に、先進国が集まってOECD(経済協力開発機構)という、通称「先進国クラブ(金持ちクラブ)」とも呼ばれる組織が作られたのですが、このOECDの中で「せっかく金を持っている国がこうして集まったのだから、みんなでお金を出し合って、発展途上国を助ける組織も作ろう」ということになり、OECDの下部組織としてDAC(開発援助委員会)が作られました。これにより、金持ちの国からの豊富な援助資金が、DAC加盟国により発展途上国に供給され、彼らの援助に役に立っています。

●UNCTAD(国連貿易開発会議)
 1964年には国連にUNCTAD(国連貿易開発会議)が設置されます。UNCTADは、貿易の活性化、経済開発などを通じて南北問題を解決するために設置されました。第1回の総会では、初代事務長のプレビッシュによるプレビッシュ報告により、モノカルチャー経済の課題について話し合われました。

 モノカルチャー経済とは、一国の経済を数品目の一次産品(農産物、鉱産資源)のみに頼り切った状態のことです。例えば、アフリカにはコーヒー豆やカカオ豆の輸出のみにより経済が成り立っているような国がたくさんありました。特に農産物は、豊作・不作によって価格が不安定なだけでなく、災害などが起きると生産自体がストップしてしまう可能性もあり、モノカルチャー経済はその国をさらに貧しくしてしまう要因となっています。

 UNCTADでは、このようなモノカルチャー経済に苦しんでいる国を助けるため、一般特恵関税の導入を認めました。農産物の輸入については、多くの先進国では自国の農業を守るため、関税を高く設定する傾向が強いのですが、貧しい発展途上国からの農産物については例外的に関税を低く設定し、国内で売りやすくしてあげようというのが一般特恵関税の考えです。

●フェアトレード
 同じような考えとして、フェアトレードという考えも広がっています。フェアトレードとはフェアな貿易(トレード)。先進国は発展途上国からの輸入品をとても安く買いたたく傾向があり、その結果、発展途上国の人たちの生活を苦しくしてしまっている現状があります。そこで、先進国が発展途上国から商品を購入する時は、発展途上国の人たちの経済的自立を達成することを考慮に入れた適正な価格(高めの価格)で買ってあげようというのが、フェアトレードの考え方です。フェアトレードの考えに基づき、UNCTADでは、発展途上国が輸出する一次産品の価格を安定させることも目標としています。

●UNDP(国連開発計画)
 発展途上国の開発については、UNDP(国連開発計画)が大きな役割を果たしています。UNDPは毎年HDI(人間開発指数)を発表することでも有名です。HDIは、インドの経済学者センたちが開発した経済指標で、各国の平均寿命、教育、生活水準などの指標を指数化した数値です。この数値を見ることにより、金銭的ではなく、実質的に豊かな国(幸せな国)はどこなのかを分析することができます。

●人間の安全保障
 UNDPは1994年の人間開発報告の中で「人間の安全保障」を提唱しました。

 そもそも安全保障という言葉は、国を守るという意味が強いですが、国を守るという意識が強すぎると、国を守るためには国民を犠牲にしても構わないという考えに陥り、独裁者によって国民の人権が踏みにじられる危険性もあります。しかし、人間の安全保障というのは、国の中にいる人間一人一人の命を守るという考え方です。人間一人一人を守るためには、戦争をして相手の国に勝つことよりも、貧困や人権保障、環境問題などに丁寧に対応することが大事です。

●NIEO(新国際経済秩序)
 一部の発展途上国はNIEO(新国際経済秩序)のおかげで経済成長することができました。

 1974年に開かれた国連資源特別総会の中でNIEOが宣言されます。NIEOとは新しい経済の秩序のこと、それまでの世界の経済ルールは先進国に有利なものだったのに対し、発展途上国の意見も取り入れた新しい国際経済のルールがNIEOということになります。

 NIEOにより、発展途上国の貿易が有利になるようなルールが宣言されましたが、特に大きかったのが天然資源に関するルールです。NIEOにより、石油などの天然資源を売る権利は多国籍企業ではなく、資源が採れる国がもつことになりました。例えば、中東で石油が採れる国のほとんどでは、せっかくたくさんの石油が埋まっているのに、実際に石油を掘り出して売ってもうける権利は、資源が採れる国ではなく、欧米に本社を置く多国籍企業が握っていました。その結果、石油が売れれば売れるほど、多国籍企業はボロもうけできるけど、石油が採れた国や国民にはほとんど利益がないような状況でした。しかし、NIEOができることにより、天然資源に対する資源保有国の恒久主権が確認されたため、石油が売れることにより、石油が採れる国も大きな利益が得られるようになり、これらの国が経済成長するきっかけとなりました。

●マイクロクレジット(マイクロファイナンス)
 2006年、バングラディシュで貧困層にお金を貸し出すグラミン銀行がノーベル平和賞を受賞しました。グラミン銀行が貧困層にお金を貸し出し、彼らが貧困から脱出する手助けをしたのがマイクロクレジット(マイクロファイナンス)という手法です。

 銀行がお金を貸し出す時は、お金を返してくれそうな金持ちに、できる限り多額のお金を、高い利子で貸し出し、もし返してもらえない時のために土地や家などの担保を設定するのが、銀行が確実にもうけるための一般常識です。

 しかし、グラミン銀行はあえて、貧しい人たちに、安い利子で、担保を設定せずにお金を貸し出します。貧しい人たちにお金を貸したら、お金を返してもらえなさそうで、危険なのではないかとみなさんは考えるかもしれません。しかし、グラミン銀行は、そんな貧しい人たちでもお金を返してもらいやすくするため、あえて、彼らが返すことができそうな少額しかお金を貸しません。あるいは、お金を貸し出す相手はほとんどが女性であり、5人1組の近所の女性グループにお金を貸し、彼女たちが連帯責任でお金を返します。確かに、1人の貧しいおっさんにお金を貸したら、すぐにギャンブルに使って逃げそうなイメージ(偏見?)がありますが、グループ意識の強い女性グループにお金を貸したほうが、お互いに気を使ってちゃんと返してくれそうな気がします。しかも、グラミン銀行がお金を貸し出すのは、生活費ではなく、農業をしたり、お店を開いたりするなどの未来資金です。

 つまり、グラミン銀行からのお金の貸し出しが、バングラディシュにおいて多くの雇用や利益を生み出し、彼らを貧困から救い出すだけでなく、経済を成長させることに貢献しています。そして、このマイクロクレジットという手法が、その他の発展途上国はもちろん、日本やアメリカなどでも貧困者を救うために導入されるようになりました。

●SDGs(持続可能な開発目標)
 2015年の国連持続可能な開発サミットで設定されたSDGs(持続可能な開発目標)もすっかり日本で定着しました。SDGsとは、2016年から2030年までの間に国連加盟国が持続可能でよりよい世界を目指すために実施する17の目標のことです。その目標には、環境問題や平和の実現に関するものもありますが、ほとんどが発展途上国の人たちを救うための目標です。こういう目標は今までも国連が掲げてきていましたが、テレビCMや学校現場を見ていると、かなりSDGsが普及してきたという実感があります。しかし、「知ること」と「すること」は別物です。日本人がSDGsという目標を知ることができた後に、みなさんがそれらの目標を達成するためにどんなことをするのかという行動に期待したいと思います。

●南南問題
 発展途上国のなかにも、うまく経済発展を遂げ、貧しさから脱出できた国も出てきました。そんな発展途上国間における、経済成長に成功してきた国と、成長に取り残されている国との格差の問題のことを南南問題といいます。例えば、NIES(新興工業経済地域)と呼ばれる韓国、シンガポール、台湾、香港は日本をモデルとした工業化に成功し、立派な工業国となりました。また、BRICSと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは、石油などの天然資源を自前で調達できることを生かした経済発展に成功しました。また、BRICS諸国は人口も多いため、国内市場を拡大することにも成功しています。

 ただし、価格が不安定な天然資源の輸出に頼り過ぎているブラジル、ロシア、南アフリカは、成長が鈍くなっており、中国、インドに差をつけられてしまっている気がします。

 このような国々が貧しさから脱出しつつあるのに対し、アフリカ大陸中央部にあるジンバブエ、ブルンジ、コンゴ、ソマリアなどは発展途上国のなかでもとくに貧しいLDC(後発発展途上国)と言われています。日本からはかなり離れており、関わりもないので、これらの国のことを知らない人も多いとは思いますが、地球人として、これらの国々の人々がどんな貧しい生活をしているのか、ぜひ興味を持ち、知って欲しいと思います。

5.ODA(政府開発援助)
 そんな発展途上国に対して、日本などの先進国政府が行う援助のことをODA(政府開発援助)と言います。ODAは大きく分けて贈与借款に分類されます。贈与とは気前よくタダであげちゃう援助で、借款とはお金を貸してあげるという援助です。

 贈与の中には、現地に人を派遣して、現地の人たちを直接助けてあげる技術協力が含まれます。技術協力の中でもっとも有名なものが、日本人の若者を期間限定で発展途上国に派遣する青年海外協力隊です。みなさんの中にも、もし青年海外協力隊として発展途上国のために働きたい人がいれば、青年海外協力隊のホームページで自分ができそうな仕事を探し、試験を受けて合格したら、2年間、日本政府から給料や生活費を受け取りながら発展途上国の人のために働くことができます。20歳から39歳の人であれば応募することができますので、ぜひ応募してみてください。

●日本のODA
 バブル景気のころから約10年間、日本のODAの金額はDAC加盟国中1位の状態が続いていました。しかし、バブル不況が長引くと「日本国内が不景気で苦しんでいるのに、外国を助けてる場合じゃない」という空気になり、2000年以降、ODAの金額は徐々に減らされ、ODA総額の順位も2019年には1位アメリカ、2位ドイツ、3位イギリスに次いで4位まで後退しました。


 そうは言っても、日本は4番目にたくさんのお金を貧しい国のために使っているわけですから、それなりに評価されていいような気もします。しかし、日本のODAは内容的に問題があると言われています。

 まず、国連機関UNCTADによると先進国はGNIの0.7%以上をODAとして使うことが目標とされています。つまり、「1年間に国民が稼いだお金のうち0.7%以上は貧しい国を助けるために使いなさい」ということです。しかし上の表を見ると、日本はGNIの0.29%しかODAに使っておらず、1位のノルウェー(1.03%)などと比べるとまだまだ援助できるのではないかと言われています。

 さらに、ODAに占めるに占める贈与の割合を示す贈与比率が38.8%と、DAC加盟国中、最下位という状態です。あるいはODAに占める贈与や低金利の借款の割合であるグラントエレメント(GE)も、DAC加盟国の平均が91.8%で100%の国がほとんどであるのに対し、78.5%とこれまた低いです。

 こんな話を聞くと、日本のケチぶりが恥ずかしくなってしまいますが、日本の言い分からすると「タダであげてしまうと発展途上国の人たちに甘えが出てしまい、むしろ援助に頼って働かなくなってしまう。それに対して、貸したお金だと、借りた後、しっかり働いて日本にお金を返さないといけないので、発展途上国の人たちが一生懸命働くようになる。つまり、発展途上国の未来を考えると、借款が多いことも意味があるということです。まあ、そう言われるとそんな意義もあるのかなという気もします。

 しかし、日本の援助はひも付き援助が多いことも有名です。ひも付き援助とは、援助をすることによって日本側も利益を得ようとする援助のことです。例えば、日本政府がお金を出して、東南アジアに橋を架けるけれども、橋を架ける工事は日本の建設会社が引き受けることにより、日本の建設会社がちゃっかり儲かるような援助のことです。

 極めつけは、2015年に新たな日本のODAの方針を示すために作られた開発協力大綱です。これにより、

①それまで禁止されていた他国軍への直接支援を非軍事目的に限り認める
②ある程度所得水準の高い国へも援助を認める
我が国の国益確保に貢献する国へ援助する

 このような方針が打ち出されました。

 ①については、例えば外国の軍隊に食料を援助したら、その軍隊は浮いたお金で新たに武器などを購入できるわけですから、非軍事目的で援助しても結局は軍事目的の援助につながる可能性もあります。②については、所得が低い国は世界にいくらでもあるのに、わざわざ所得を高い国を選んで援助する必要があるのかと思ってしまいます。そして極めつけは③です。③は言ってしまえば、その国を援助することによって、日本も儲かりそうな国に援助するということです。ここまで来るともう人助けですらなくなっているような気もします。

6.中国という存在
 日本の貿易相手をまとめるとこうなります。

 注目はやはり中国アメリカでしょう。2020年の日本の輸出相手国第1位は中国ですが、2位のアメリカとはほとんど差はなく、実は2019年の1位はアメリカでした。よって、日本製品を世界で最もたくさん買ってくれている国は、中国とアメリカのトップ2だと思ってもらって構いません。それに対し、日本の輸入相手国第1位はダントツ中国であり、日本中に中国製品があふれている状態です。そう考えると、生活の中で、何かとMADE IN CHINAの文字を目にする理由もわかるような気がします。

 中国という国は、共産党が独裁政治を行ったり、第二次世界大戦で日本と戦ったことがいまだに尾を引き、反日感情を持っていることなど、みなさんの中にも中国についてよいイメージを持っていない人も多いかもしれませんが、こうしたデータを見る限り、中国は日本の大事なお客さんであり、中国なしでは日本人の生活は成り立たない状態なのです。ですので、政府間には色々な衝突や問題があるかもしれませんが、みなさん自身は、差別的な考えを持つのではなく、どうやったら中国の人たちとうまく付き合えるかを考えてもらえたらと思います。

●一帯一路構想
 中国の経済発展に関して注目されるのが、2013年に習近平国家主席が発表してから推し進められている一帯一路構想です。一帯一路構想とは、中国からアジア、ヨーロッパ、アフリカに向けて交通網を整備し、これらの地域を巨大経済圏を作ろうという計画です。これらの地域には貧しい国も多く、これらの地域の経済を活性化させる点では、一帯一路構想は有意義な計画であるともいえるのですが、アメリカや日本は、これらの地域が中国主導で開発されることにより、中国陣営に組み込まれ、中国の政治的・経済的地位が大きくなり過ぎることを警戒しています。

●AIIB(アジアインフラ投資銀行)
 2015年に中国は、一帯一路を実現するためAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立しました。この銀行は中国政府が中心となって出したお金をアジア諸国のインフラ(=道路、港、鉄道、通信網などの社会資本)整備のために貸し出すことにより、アジア諸国を開発していこうというものです。100か国以上がAIIBに加入し、AIIBにお金を提供したり、AIIBからお金を借りたりしていますが、日本とアメリカはAIIBと似たような役割を果たすADB(アジア開発銀行)を日本主導で1966年にすでに作っており、中国の野望に警戒心を持っていることから、アメリカと共にAIIBには参加していません。

7.国際会議
●サミット(主要国首脳会議、先進国首脳会議、G7サミット)
 石油危機の混乱直後の1975年、フランスのジスカールデスタン大統領の提案により、日本、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ(当時は西ドイツ)の6ヶ国サミット(先進国主要会議)が開かれました。翌年にはカナダが参加して7ヶ国となり、その後、世界の重要事項がこのサミットにより決められていきます。1998年からはロシアが加わることにより8ヶ国となり、当時のロシアは先進国といえるほど裕福でなかったため、先進国主要会議から主要国首脳会議に名称が変わります。しかし、2014年にはロシアがウクライナのクリミアを編入したことが批判を受け、ロシアが資格停止となり、再び7ヶ国に戻ります。そして、この頃からサミットのことをG7サミットと呼ぶようになります。

●G7(先進7ヶ国財務相・中央銀行総裁会議)
 G7サミットのほかにG7と呼ばれる会議があります。G7サミットに参加するのは、さっきの7ヶ国の政治のリーダーなので、アメリカ、フランスからは大統領日本、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダからは首相が出席し、政治や経済など幅広いテーマについて話し合います。

 それに対し、G7に参加するのは、7ヶ国の財務大臣と中央銀行(日本の場合は日本銀行)総裁です。つまり、その国における経済のトップ2が参加するのがG7なので、G7での話し合いは基本的には経済問題がメインになってきます。

●G20
 2008年のリーマン・ショック以降は、G20サミットも開かれるようになりました。G20に参加するのは、さっきの7カ国のほか、BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に、メキシコ、オーストラリア、デンマーク、インドネシア、韓国、アルゼンチン、トルコ、サウジアラビアとEUの代表です。G20にも、さきほどのG7サミットとG7のように、各国の首脳(大統領と首相)が集まるG20サミットと、財務大臣と中央銀行総裁が集まるG20があります。

 2008年からG20サミットが開かれるようになって、明らかにニュースを見ていても、G7サミットよりもG20サミットのほうが大きく報道されるようになりました。それはもちろん参加する国の数が多く、大がかりだからというのもあるとは思いますが、これが近年の国際化の流れを象徴しているとも言えます。

 というのが、リーマン・ショックが起きる前は、世界の中心はアメリカであり、アメリカとその仲間たちが話し合うG7サミットの話し合いの結果が、世界に大きく影響していました。しかし、リーマン・ショックでアメリカ経済が大打撃を受け、その影響でアメリカの仲間たちが大打撃を受けた後は、特に中国が大きな力を持つようになり、ロシアやインドなども発言力を強めてきました。その結果、アメリカを中心としたG7サミットは存在感が小さくなり、G20のほうがより重要になってきました。これはまさに、アメリカの一極集中から、多極化へと世界が変わっているということだと思います。

 つい数年前まで、私たちは世界情勢と言えば、アメリカ、ヨーロッパを中心とする地域を知っていれば十分でした。しかし、現在世界情勢を理解しようと思えば、中国、ロシア、東南アジア、中東、南米、アフリカなど、多くの地域についてのアンテナを張っていないといけません。そんなたくさんの地域について調べるなんて面倒くさいと思うかもしれませんが、面倒くさいというよりも、世界を知り、世界中の人たちを知ることができれば、世界中の人たちと友達となることができます。

 そんな前向きなワクワクする気持ちを持ちながら、ぜひこれからも世界経済を勉強し、世界の一員であるという自覚を持ってほしいと思います。

2022年3月14日