23時間目:国際貿易体制

1.自由貿易と保護貿易
 国際化が進む中、世界では貿易がますます盛んになっています。ちょっと気になったので、今、私が身につけている衣類の製造国を調べたところ、時計・上着・長そでシャツ・タイツ=中国製、ズボン・パンツ・サンダル=ベトナム製、下着シャツ=フィリピン製、トレーナー=マレーシア製と、見事にすべて外国製でした。意外だったのが、時計と上着はそこそこ高かったので日本製かと期待したのですが中国製で、中国製だと思っていた製品が東南アジア製だったので、中国製品が気付かないうちに高額化していることに驚きました。

 世界中の貿易を盛んにするのに貢献した経済理論の一つが、イギリスの経済学者リカードが『経済学および課税の原理』という本の中で主張した比較生産費説です。

●自由貿易(比較生産費説)

 この表を詳しく説明します。日本とタイがそれぞれ、コメと自動車をそれぞれ1単位ずつ生産しています。日本は、コメを1単位生産するのに120人の労働力が必要であるのに対し、自動車は同じ1単位をたった80人の労働力で作ることができます。ということは、少ない労働力で同じ1単位を作ることができるので、日本は自動車を作るほうがコメを作るよりも得意であるということがいえます。

 それに対してタイはコメを1単位生産するのに100人の労働力が必要ですが、自動車を1単位作るときには130人もの労働力が必要となってきます。つまり、タイはコメを作るほうが自動車を作るよりも得意であるということがいえます。

 その結果、日本政府とタイ政府が話し合って、お互いが得意な商品だけを作ることに専念(特化)して、お互いの商品を交換し合(貿易)ことを約束したとします。すると、日本は今までコメを作っていた120人も自動車を作ることにして、合計(80+120=)200人で自動車を作ることにします。そうすると、今までは80人で1単位の自動車を作っていたのが、今までの(200÷80=)2.5倍の労働力で自動車を作るようになるので、作ることができる自動車の量も(1×2.5=)2.5単位に増えます

 それと同じようにタイでは、今まで自動車を作っていた130人もコメを作るようにして、合計(100+130=)230人でコメを作るようにします。すると、今まで100人でコメを作っていたのが今までの(230÷100=)2.3倍の労働力でコメを作ることになるので、作ることができるコメの量も(1×2.3=)2.3単位に増えます

 そうなると、お互いが得意な商品に特化する前の日本とタイの自動車の生産量の合計は(1+1=)2単位、コメの生産量の合計も(1+1=)2単位だったのに、自動車の生産量は2.5単位に、コメの生産量は2.3単位となり、自動車の生産量は(2.5-2=)0.5単位、コメの生産量は(2.3-2=)0.3単位増えて、これらの商品を日本とタイが仲良く交換するようにすれば、同じ労働力でたくさんの商品を生産することができて、経済活動も効率です。このような考えのことを比較生産費説といいます。

 比較生産費説によりリカードは、それぞれの国が得意な商品だけ生産する国際分業を行って、お互いがそれらの商品を交換し合うようにする自由貿易を促進することが、世界全体の経済活動を発展させると主張しました。

●保護貿易
 しかし、そんなリカードの自由貿易の考え方を批判したのがドイツの経済学者のリストです。リストは自由貿易を批判し、各国は保護貿易を行うべきだと主張しました。

 彼の理論によると、リカードが言うように、もし各国が自分たちの得意な商品だけを作るようにした場合、価格の安定している工業製品に特化した工業国は安定した利益を得ることができるかもしれませんが、価格の不安定な農産物の生産に特化した国は、豊作、不作に左右され、経済が不安定になってしまい、金持ちの工業国と貧乏な農業国という経済格差が発生してしまいます。だから、リストは貿易をできる限り控え、自分の国の産業を外国から守り、保護する保護貿易を主張しました。

 国際化の流れからすると、リカードの自由貿易理論を採用するのが正しいように思えますが、自由貿易だと、国際競争力を持った商品をたくさん売ることができる日本やアメリカなどの先進国ばかりが利益を得て、発展途上国はほとんどもうからず、さらに貧困が進むこも考えられます。

 日本にとっても、新型コロナウィルスが流行し始めたころ、マスクのほとんどを中国や台湾などからの輸入に頼っていた結果、深刻なマスク不足に悩まされたこともありました。さらに、現在のように食料の半分以上を海外からの輸入に頼っている状態では、世界が深刻な食料難に見舞われた時、日本国内で深刻な食料不足が起こる可能性もあり危険です。

 そう考えると、基本的にはリカードの自由貿易を進めながら、必要に応じて、リストの保護貿易の考えに基づき、貿易を制限して国内産業を守る必要があることがわかります。

2.国際収支
 日本では、毎年、財務省の担当者が日本の国際収支を計算してくれています。以下の表を見てください。

 国際収支とは、1つの国における1年間の外国とのお金の移動を、集計してまとめたものです。国際収支は大きく分けて、経常収支、金融収支、資本移転等収支と、誤差脱漏(集計ミスの修正)に分類することができます。

 経常収支は4つの項目からなり、外国からお金が入ってきた金額を黒字(+)として足し算して、外国へお金が出て行った金額を赤字(-)として引き算し、プラスマイナスした数字を集計します。だから、外国からお金が入ってくるほうが多い項目では黒字(+)になるし、外国にお金が出て行くほうが多い項目では赤字(-)になります。また、資本移転等収支も同じルールです。

 それに対し、金融収支は5つの項目からなり、経常収支とは逆に、外国へお金が出ていった金額を黒字(+)として足し算して、外国からお金が入ってきた金額を赤字(-)として引き算します。だから、外国にお金が出ていったほうが多い項目では黒字(+)になるし、外国からお金が入ってきたほうが多い項目では赤字(-)になります。このあたりがとても分かりにくい所です。

●日本の国際収支
 2020年の日本の国際収支を解説すると、貿易収支は、日本製の自動車や電気製品などが外国でよく売れてますので、外国からそれらの代金を受け取ることにより黒字となっています。

 サービス収支は、日本への外国人観光客が増えてきたこともあり、コロナ前の2019年までは黒字の時期が続いていたのですが、コロナ後は外国人観光客が激減し、再びサービス収支も赤字になってしまいました。

 第1次所得収支大幅に黒字というのはどういうことでしょうか? 第一次所得収支の項目には、銀行の利息、株式の配当金、外国人労働者の給料などがありますが、まずは外国人労働者の給料について考えましょう。この数値が黒字ということは、日本という国は、外国人が日本で働いて受け取る給料より、日本人が外国で働いて受け取る給料の方が多いということになります。言い方を変えると、日本で働くよりも外国で働く方がもうかるということであり、それほど日本という市場がが、魅力がないことを意味しています。同じように、外国企業が日本に投資して得た利子や配当金よりも、日本企業が外国で儲けた利子や配当金のほうが多いということでもあり、日本の企業にとっても日本市場は魅力がなく、外国で活躍したほうが儲かるということを意味しています。悲しいですけど…。。

 第二次所得収支というのは、消費財の無償援助、外国人の祖国への送金、国際機関への拠出金のような、海外への援助金・送金のことです。世界的には金持ちの部類に入る日本ですから、貧しい国へ食料援助などを行い、国連などの国際機関にもお金を援助していますので、ここの項目が赤字になるのは当然のことです。むしろ、日本のような国の第二次所得収支が黒字になるということはそうとうヤバい状況であるということです。

 消費財の無償援助は、第二次所得収支に計算されるのに対し、資本財の無償援助は、資本移転等収支に計算されます。つまり、同じ貧しい国への援助でも食べ物や医薬品のような消費財(無くなるもの)の援助に使ったお金は第二次所得収支ですが、道路や橋などの資本財(残るもの)の建設に使ったようなお金は資本移転等収支に計算されます。この資本移転等収支も、金持ちの部類に入る日本はもちろん赤字です。

 そして、金融収支です。金融収支の中でも最も重要な項目が直接投資です。直接投資とは、海外に生産工場を作ったり、支店を作るなど、企業などが事業を拡大するために使ったお金の項目のことです。直接投資が黒字ということは、外国でお金を使っているということなので、経常収支のルールですと黒字になるところなのですが、直接投資により工場や支店が外国にできると外国に日本人の資産ができてプラス(いいこと)の出来事だ! という考えから、直接投資のような金融収支は黒字(+)に計算されます。逆に、外国企業が日本に工場やお店を作ったりすると、外国企業が日本に進出してきているというマイナス(悪いこと)イメージなので、金融収支は赤字(-)に計算されます。

 日本の直接投資は、近年、黒字が続いています。考え方によっては、それほど日本企業が外国で活躍している! という捉え方もできますが、逆に考えれば、日本企業にとってやはり日本という市場は魅力がないので、元気な中国や東南アジアで工場やお店を作ったほうがもうかる傾向が強いとも言えるでしょう。

 同じような理由で証券投資も日本は赤字です。証券投資は、日本人が外国企業の株や外国の国債をたくさん買えば黒字になり、外国人が日本企業の株や日本国債を買えば赤字になります。ということは、現在は、日本の企業の株は人気がなく、外国企業の株の方が、人気が高いということです。これまた悲しい話ではありますが…。

 なお、同じ株を買うとしても、企業を買収するための株取得は、企業の事業拡大につながりますので直接投資買収目的ではない株取得証券投資に分類されますのでご注意ください。

 もう一つ、外貨準備増減について説明しておきましょう。その国の政府や中央銀行が保有している外国通貨や金の額を外貨準備高といいますが、その増減を計算したものが外貨準備増減です。外国通貨を保有しておくことにより、いざという時に、円高・円安などの外国通貨に比べた自国通貨の価値をコントロールすることができます。これについては後で説明します。あるいは、外国からの突如の借金返済要求にも対応することができます。そんなもしものために政府や中央銀行が準備しているのが外貨準備高です。

 基本的に、日本企業が外国に商品を売りまくり、外国人に外国通貨で支払ってもらえば、日本の外貨準備高は増えます。日本は長らく外貨準備高が世界一でしたが、2006年に中国に抜かれ、現在第2位となっています。基本的に外貨準備高は、自分の国と通貨が違う国との間で貿易黒字になったら増えますので、日本は主にアメリカとの貿易黒字によりドルを手に入れてきました。しかし、21世紀に入り、日本よりも中国のほうがアメリカとの貿易黒字を大幅に増やし、外貨準備高世界一となりました。

3.円高・円安
 外国と貿易をする時には、その国の使う通貨と自分の国の通貨を両替する必要があります。そんな外国通貨との交換比率のことを外国為替相場(外国為替レート)といいます。外国為替相場は、その通貨の人気が高まるか弱まるかによって、通貨高・通貨安が発生します。日本の円で言えば、円高・円安が発生します。この円高・円安の意味がわからない人が多いので、詳しく説明しましょう。

 例えば、1ドル=100円と1ドル=200円を比較した場合、純粋に考えると、100円と200円だったら、200円の方が高いので、1ドル=200円の方が円高かと思ったら、違っています。この2つだと1ドル=100円のほうが円高で、1ドル=200円が円安です。この時点で、パニックになる人がいるかもしれませんが、わかりにくいのは、みなさんが日本人の気持ちになって考えているからであり、アメリカ人の気持ちになって考えてみたほうがわかりやすくなるかもしれません。

 わかりやすくするため、ドルではなく、円のほうに数字をそろえてみましょう。1ドル=100円ということは2ドル=200円ということです。では、2ドル=200円と、1ドル=200円をアメリカ人の気持ちになって考えてみます。アメリカ人のマイケルくんが、今度、日本に旅行に行くため、普段使っているドルを日本の円に両替しないといけなくなりました。マイケルくんが銀行に行って、両替してもらったところ、1ドル=200円の時には200円を手に入れるのに1ドル払えば十分でした。しかし、10年後、再び日本に旅行に行くことになったマイケルくんが、2ドル=200円の時に銀行に両替に行ったらどうでしょうか? 10年前は200円を手に入れるのに1ドルで十分だったのに、同じ200円を手に入れるのに2ドルも払わないといけなくなりました。どうですか? 円が高くなっていますよね? これが円高です。つまり円高・円安とは、外国人が自分の国の通貨を両替して円を手に入れようとするとき高ければ円高安ければ円安ということになります。

 基本的に、日本政府は、意図して円安にもっていきたがる傾向があります。それはなぜでしょう? 以下の図を見てください。

 日本国内で200万円で売っている車をアメリカ人のマイケルくんが購入しようとする場合、1ドル=200円の時はマイケルくんは1万ドルを払えば買うことができます。そんなマイケルくんが10年後の1ドル=100円の時に再び200万円の車を購入しようとすると、日本国内では200万円と値段は変わらないのに、マイケルくんにとっては2万ドルに値上がりしてしまいます。それだけ高いと、マイケルくんは買うのをやめてしまうかもしれません。

 つまり円安の時のほうが、外国人が日本製品を買う時の値段が安くなるので、日本企業が日本製品を外国に売って貿易で儲けようと思ったら円安が有利です。だから、日本政府や日本銀行は、日本企業が貿易でも受けやすくするために円安になるように誘導する傾向があるのです。

 その結果、円安になることが良いことで、円高は悪いことだと勘違いする人も多いのですが、果たしてそうでしょうか? 次のパターンを考えてみましょう。

 日本人の太郎くんが、ハワイに行ったお土産に10ドルのマカデミアナッツチョコを買います。まず、太郎くんが1ドル=200円の時に、10ドルのマカデミアナッツチョコを買ったとすると、日本円で2000円払えば買うことができます。そして、10年後、1ドル=100円の時に、再びマカデミアナッツチョコを買えば、今度はたった1000円で10ドルのチョコを買うことができます。つまり、私たちが海外旅行費用を安く抑えて楽しもうと思ったら円高の時が楽しいということになります。

 まとめると、外国に商品を売る人にとっては円安のほうがうれしい外国の商品を買う人というのは円高のほうがうれしいということになります。みなさんはどっちでしょうか? よく考えると、一般庶民の多くが、外国から輸入したガソリンを買い、外国から輸入した小麦や砂糖などを加工した食べ物を食べ、外国から輸入した服を着て生活する外国から商品を買って生活する人たちです。その人たちにとっては、円高になったほうが生活費が節約でき、うれしいことになります。

 とは言っても、円安になって、日本を代表するトヨタ自動車やパナソニックの商品が外国で売れてもうからないと、日本の景気は良くならないし、日本人の給料も上がりません。そう考えて、日本政府は円安に誘導するような政策をよく行っています。

 そう考えると、円高がいいのか、円安がいいのか、ますます悩んでしまうところですが、少なくとも円安=正義、円高=悪ではないことは知っておきましょう。

4.国際貿易体制
 貿易をする時に問題となるのが、お金の支払いです。例えば、日本人がエクアドル人に200万円の車を売り、エクアドル人から200万スクレを受け取ったとしましょう。しかし、スクレは日本国内で使えないので200万円スクレを受け取ってもうれしくありません。さらに言えば、200万スクレがいったいどれだけの価値があるお金なのかよくわかりません

●金本位制
 そんな、通貨の違う国同士の貿易を便利にするため、世界恐慌までは世界の多くの国が金本位制を採用していました。金本位制とは、中央銀行が金庫の中に保管する金と同じ価値だけ紙幣を印刷することにより、本来紙切れである紙幣をお金として通用させることに成功した制度だというのは17時間目:金融のところで説明しましたが、この制度を世界中の国々が採用することにより、貿易の時のお金の支払いがとっても便利になりました。

 例えば、アメリカでは中央銀行の金庫に金が1500㎎貯まるごとに1ドルを印刷していたとしましょう。そして日本は金1500㎎ごとに2円、フランスは4フラン、ドイツは7マルクを印刷していたとしましょう。以下にまとめます。

 この図から、フランスで、4フランで売っている商品は2円の価値があることがわかります。なので、本人がフランス業者から40フランの商品を買う時は、銀行に20円を持っていって、金1万5000㎎を手に入れ、フランス業者に金1万5000㎎を渡します。そして、金を受け取ったフランス業者が銀行で金1万5000㎎を40フランに交換することにより商売完了です。このように、金本位制を採用している国同士では、相手の国の商品がいくらなのかわかるし、金を仲介することにより、お金の支払いもできるし、とっても便利でした。その結果、世界中の貿易も活発になります。

 そんな便利な金本位制世界恐慌により終了します。アメリカから始まった世界的な不景気の影響を受け、世界各国は自国経済を復興させるための景気政策に取り組みます。日本でも、日本経済を立て直すため、日本銀行は金本位制を放棄し、金の保有量に関係なく円を大量に印刷しました。円が大量に印刷されることにより、人為的に円安の状態が作り出され、円安により貿易に有利な状況を作り出そうとしました。しかし、そんなことを世界中がやったものですから、4フランの商品が何円なのか、外国の商品を買った時にいくら払えばいいのかのルールがわかりにくくなり、世界中の貿易が停滞します。

●ブロック経済
 そんな中、列強と呼ばれる国々が行ったのがブロック経済です。金本位制が崩壊することにより、外国人とのお金の支払いが難しくなり、貿易がしづらくなりました。しかし、以下のような方法を使えば、引き続き簡単に貿易を続けることができます。

 日本の場合、台湾や朝鮮半島、満州などを植民地として支配します。そしてこれらの地域で日本の円を使わせる(実際には日本の円と同じ価値を持つ現地通貨を使わせる)ようにすると、引き続きこれらの地域とは貿易の時の支払いが簡単にできます。そして、これらの地域と貿易したくても、円を使っていないアメリカやイギリスは入ってこれず、彼らとの貿易をブロックすることができます。これがブロック経済です。

 イギリスやフランスなど、世界中にたくさん植民地を持っている国は、そんなブロック経済を行うことにより利益を確保できたわけですが、ブロック経済を成立させるためには、より多くの植民地を獲得する必要が出てきます。その結果、より広い植民地を獲得しようとしたドイツ、イタリア、日本などが、植民地をすでにたくさん持っているイギリス、フランス、アメリカなどに戦いを挑み、第二次世界大戦という悲劇が起きてしまいました。

●ブレトン・ウッズ会議
 金本位制の崩壊による国際貿易体制の崩壊が第二次世界大戦を引き起こしてしまったという反省を踏まえ、第二次世界大戦終結直前の1944年にアメリカのニューハンプシャー州ブレトン・ウッズで、ブレトン・ウッズ会議が開かれました。この会議の成果としてIMF(国際通貨基金)IBRD(国際復興開発銀行)が作られます。

 この会議では、第二次世界大戦の原因となったブロック経済化を防ぐためにはどんなルールを作ればいいかが話し合われました。ブロック経済化が進んでしまった原因の一つに、世界貿易の支払いをスムーズに機能させていた金本位制が崩壊してしまったという反省がありました。この会議にイギリス代表として参加していた経済学者ケインズ13時間目:資本主義・社会主義参照)は、世界にたくさんの種類のお金があるから、両替の必要が出てきて、今回のような混乱が発生する。だったら、世界中の人たちが安心して使える世界共通通貨を作ればいいと提案しました。ケインズはそんな世界共通通貨としてバンコールという名前も考えてきました。つまり世界中の人たちがバンコールという同じお金を使えば、外国の通貨の両替なんてする必要はなく、世界中のお金の支払いがとってもスムーズです。ケインズの提案はまさに画期的でわかりやすいものでした。

 しかし、第二次世界大戦で大活躍し、世界的な発言力を強めたアメリカが、そんなケインズの案に反対します。アメリカ代表ホワイトは、そんなバンコールのような新しい通貨をわざわざ作らなくても、既に世界にあるお金の中で最も信用されているお金を、世界共通通貨として使えばいい。と提案しました。そして、そんな最も信用されているお金にアメリカのドルが選ばれます。

 その後、世界中の国々は、外国人と貿易をしてお金を支払うときは、ドルを使うようになります。そして、アメリカは世界の人たちが安心してドルを使えるようにするため、アメリカにドルを持ってくればいつでも金1オンス(28.35g)=35ドルで交換することを約束します。この制度を金ドル本位制といいます。

 これにより、世界中の人たちが貿易の時、ドルを使って買い物をするようになったのですが、もちろんこれによってドル以外の通貨がなくなったわけではありません。例えば、日本人は日本国内では今まで通り円を使い、外国人から買い物する時には、1ドル=360円の交換比率で円をドルと両替して、ドルで支払う。そんなことをしていました。そんな世界中の人たちが安心して使うドル基軸通貨と呼ばれました。

 ここで重要なのは、1ドル=360円、1ドル=0.36ポンド、1ドル=4.2マルク、1ドル=4.9フランという風に、各国の通貨が基軸通貨であるドルを基準に価値が固定されていたということです。現在では、1ドル=100円になったり、110円になったりと、円とドルの交換比率は毎日変動し、円高の時期があったり、円安の時期があったりと、ややこしい時代になっているのですが、当時は、1ドル=360円といったらずっと360円だったので、360という数字を暗記していれば、外国製品が今何円で買えるのかが瞬時に計算できるとっても便利でわかりやすい固定相場制の時代でした。

●IMF8条国・IMF14条国
 このような世界のお金の流れ・ルールを、ブレトン・ウッズ会議により作られた国際機関であるIMF(国際通貨基金)が管理・監視することにより、世界中の貿易がスムーズに行われるようになりました。IMFの管理のもと、世界中の国々は自分の国の通貨を自由に外国の通貨と両替できるようにするのが基本ルールとなりました。これを為替の自由化といい、為替の自由化を義務付けられた国のことをIMF8条国といいます。金持ちの国がこのIMF8条国に指定されるのに対し、為替の自由化を免除された貧しい国のことをIMF14条国といいます。

 例えば、とっても貧しい「トビ共和国」が「カープ」という通貨を使っているとしましょう。トビ共和国には車や電化製品を作る企業がないので、アメリカから車や電化製品を買うことにしました。その結果、アメリカの銀行で10億カープを2000ドルに両替して、アメリカに車や電化製品の代金として支払います。そして、トビ共和国の産業にも利益を得るために、アメリカに対して「トビ共和国」の商品も買ってくれるようにお願いするのですが、「トビ共和国」の産業は「納豆」「鮒寿司」「くさや」しかないので、アメリカ人は嫌がって何も買ってくれませんでした。

 すると、「トビ共和国」がドルと両替するときに支払った「10億カープ」が世界の銀行業界に流通するわけですが、この「10億カープ」は、どこかの国が「トビ共和国」から「納豆」「鮒寿司」「干し柿」を買いたいと思わない限り必要とされない、人気のない通貨となってしまいます。つまり、その通貨への需要がなくなるとその通貨の価値はますます下がり、その通貨は国際的に信用のないクズ通貨となってしまい、そんなクズ通貨で生活している「トビ共和国」はますます外国から商品を買いにくくなり、さらに貧しい国になってしまいます。そんな状況を防ぐため、貧しい国は、自国通貨の価値が極端に下がると思えば自国通貨の両替を制限することができるIMF14条国に指定され、為替の自由化を免除されることがあります。

 ちなみに、日本はIMFに加盟したころはIMF14条国だったのですが、高度経済成長の真っ最中の1964年に晴れてIMF8条国に移行しました。

●IMF(国際通貨基金)・IBRD(国際復興開発銀行、世界銀行)
 IMFは困っている国にお金を貸す銀行の役割も果たしています。そんなIMFと同時にIBRD(国際復興開発銀行)も作られました。IMFもIBRDも困った国にお金を貸す銀行であることは同じなのですが、当初、IMFが主に貿易赤字に苦しむ国に短期融資でお金を貸す機関であるのに対し、IBRD戦争や貧困に苦しむ国に長期融資でお金を貸す機関であるという目的で作られました。

 短期融資とは返済期限が1年以内の借金のことであり、長期融資は1年以上の借金のことです。貿易赤字で借金をするということは、言い変えると買い物をし過ぎたということです。買い物しすぎということは、無計画に買い物をし過ぎたあなたが悪いのだからすぐにでも返しなさい! という理論となり、貸し出すお金は短期融資ということになります。それに対し、戦争や貧困で苦しむ国は1年以内に復興するなんて無理ですよね。だから、IBRDから貸し出すお金は10年、20年かかってもいいよという長期融資ということになります。

 その後、IMFは、貿易赤字に苦しむ国に留まらず、幅広い国々にお金を貸すようになりました。1997年にはアジア通貨危機をきっかけに自国通貨が暴落したタイ、インドネシア、韓国などを支援しました。また、2010年には自国国債が暴落したギリシアを支援します。このように、現在のIMFは貿易赤字に関係なく、世界的な経済危機のきっかけになりそうな事態を防ぐために融資を行う特徴があります。

 ひょっとしたら日本も、日本国債が大暴落した結果、日本政府が破綻し、IMFにお金を借りるなんてこともあるかもしれません。もしそうなってもIMFが助けてくれるなら安心だ! なんて思ってはいけません。例えば、韓国の場合、IMFからお金を借りる条件として、韓国経済を立て直すための経済政策をIMFから強制されました。その結果、韓国では、たくさんの銀行が容赦なくつぶされたり、税金が大幅にアップしたり、かなり強引な経済政策がIMFの指示のもと行われ、大きな犠牲を伴いながらIMFにより韓国経済が立て直された歴史があります。なので、IMFからお金を借りるのはできたら避けたいところです。

 IBRDはそもそも第二次世界大戦でボロボロになった国々が復興のためにお金を借りる銀行として作られました。ですので日本もIBRDからお金を借りていました。例えば、日本が世界に誇る新幹線もIBRDから借りたお金で建設されたことも有名です。その後、復興を果たした日本はIBRDから借りたお金を完済し、今では逆にIBRDにお金を貸す立場に代わっています。

 現在では、IBRD貧しい発展途上国にお金を貸す機関になっていますが、発展途上国にお金を貸す機関としてはIDA(国際開発協会)も活躍しています。IBRDIDA発展途上国にお金を貸す世界銀行グループの一機関として有名ですが、IBRDよりもIDAのほうがより貧しい国に融資を行っており、貸し出すときの条件もゆるく、返済期限も長いという特徴があります。

●GATT(関税および貿易に関する一般協定)
 1947年に、自由貿易を行うためのルールとしてGATT(関税および貿易に関する一般協定)と呼ばれる国際条約が作られました。

GATT三原則
自由関税をできる限り低くし、非関税措置(輸入量の制限など)を撤廃する。
無差別ある国が1つの国に与えた貿易の特権は、GATT加盟国全てに適用するようにして、全ての国が同じルールのもとで貿易を行うようにする(最恵国待遇)。
多角…貿易のルールに関する話し合いは、少数の国(二国間)で勝手に話し合うのではなく、多国間による話し合いラウンド交渉)で決定していく。

 GATTは、自由貿易を活発にし、ブロック経済化を防ぐためのルールです。だから、基本的にGATT加盟国は自由貿易を進めなければなりません。しかし、自由貿易を活発にし過ぎると、外国に売れる商品を生産していない貧しい国は、アメリカや日本の商品を買うばかりで、自分たちの商品を買ってもらえずさらに貧しくなってしまう危険性があります。そんなかわいそうな国のためにGATT12条国というルールがあります。

 外国製品を輸入することにより国内産業が大打撃を受けそうな貧しい国GATT12条国に指定され、輸入の制限をすることが認められました。逆に輸入の制限が認められないガチの貿易を要求される金持ち国のことをGATT11条国といいました。日本もGATTに加盟したころは貧しかったのでGATT12条国でしたが、高度経済成長を経験した1963年に晴れてGATT11条国に昇格しました。

 GATTの基本ルールは自由貿易ですが、緊急時にはセーフガード(緊急輸入制限)を使って輸入を制限することが例外的に認められています。実際に日本も中国産のネギ、シイタケ、畳表から国内農業を守るためにセーフガードを使ったことがあるというのは20時間目:経済諸問題でも説明しました。

 GATTの話し合いは、ラウンド交渉を原則としています。ラウンドとは円い形をしたテーブルを指します。ラウンド交渉の反対言葉が二国間交渉です。二国間交渉のテーブルは二国の代表が向き合って座る四角いテーブルで行うことになります。つまり、貿易に関するルールは、2つの国がこそこそと抜け駆けして決めるのでなく、全加盟国が集まって円いテーブルを取り囲んで決めるべきだというのがラウンド交渉の理念です。

 その結果、GATTの主なラウンド交渉として、次のような交渉がありました。

1964~1967 ケネディ・ラウンド ・工業製品の関税の一括引き下げを目標とする。
1973~1979 東京ラウンド ・工業製品の関税の一括引き下げと、非関税措置の軽減を目標とする。
1986~1994 ウルグアイ・ラウンド ・工業製品の関税の一括引き下げと、非関税措置の軽減を目標とする。
・農業、サービス、知的所有権の貿易問題について話し合う。
・GATTを発展させるためWTOの設立を決定。


 最初は工業製品の関税引き下げだけだったのが、非関税障壁の軽減農産物、サービス、知的所有権の貿易ルールなど、話し合う内容がどんどん増え、発展していったところに注目です。そして、GATT最後のラウンド交渉であるウルグアイ・ラウンドは、日本の牛肉・オレンジの自由化のきっかけになったことも有名ですが、ここでの話し合いの結果、WTO(世界貿易機関)の設立が決定しました。

●WTO(世界貿易機関)
 1995年、GATTを発展させる形でWTO(世界貿易機関)が誕生しました。WTO(世界貿易機構)11時間目:東西冷戦で出てきたWTO(ワルシャワ条約機構)と同じ略称ですが、1991年にワルシャワ条約機構が解体したあとに、WTO(世界貿易機構)が作られましたので、現在も存在するのはWTO(世界貿易機構)だけです。

 GATTというのは国際条約、つまりルールが書かれた紙きれに過ぎず、GATTに違反する国が出てきても対応することが難しかったのですが、WTOは、貿易に関するトラブルが発生するとパネル(小委員会)を設置して問題を解決することができるようになります。例えば日本も、2012年に中国がレアアース(希少金属)の輸出を禁止し国内の電子産業が打撃を受けたときにWTOに提訴し、日本の主張を認めてもらえたことがありました。

 そして、WTOができてからもラウンド交渉として、ドーハ・ラウンドが開かれました。そして、このドーハ・ラウンドによって、新たな自由貿易のルールが作られるはずだったのですが、主に先進国と発展途上国間の意見が対立し、ドーハ・ラウンドは交渉が決裂した状態です。

5.変動相場制の時代へ
 戦後の国際経済は、ドルを基軸通貨とする金ドル本位制のおかげで安定し、貿易も盛んに行われるようになっていきました。しかし、この安定は、アメリカの通貨「ドル」をみんなが安心して使える状況が続くことを前提としていました。逆に言えば、ドルの価値が下がり、みんなが安心してドルを使えなくなると、再び世界が不安定になるということです。そして、その心配が実際に現実のものとなりました。

 1965年からのベトナム戦争では、大量のアメリカ軍がベトナムに派遣されただけでなく、アメリカは戦争に必要な物資を海外から大量購入し、支払いに大量のドルが使われます。あるいはこの頃になると、戦争の荒廃から復興した日本やヨーロッパが、安くて優秀な製品をたくさん作るようになり、彼らの商品がアメリカ国内でバカ売れします。そしてこれらの代金もアメリカはもちろんドルで支払います

 このようにアメリカが世界中でドルを使いまくったおかげで世界中がドルであふれ、ドルの価値が下がってしまいました。その結果、世界中の人たちが「今は、アメリカは金1オンス=35ドルで金とドルを交換することを約束しているけど、今からさらにドルの価値が下がりまくって、金1オンス=35ドルで交換できなくなるかもしれない」と不安に思い、彼らは競って手元にあるドルをアメリカに持って行き、金と交換しまくりました。その結果、アメリカ国内の金が大量に海外に流出するというゴールドラッシュが起こります。

●SDR(特別引出権)(1969年)
 この事態にいち早く気付いたのがIMFでした。IMFは、今後さらにドルの価値が下がり続ける可能性を考え、ドルに頼りすぎる状況が危険だと判断し、1969年に、SDR(特別引出権)という独自の通貨を作りました。SDRは、SDRという紙幣が印刷されているわけではなく、IMF加盟国が世界各国のお金と両替するための権利のような存在です。例えば、日本が中国との間の貿易赤字が深刻化し、国内に中国に支払う元が不足した場合、日本政府は保有するSDRを中国の元と両替してもらうことにより、元を調達することができます。

●ニクソン・ショック(1971年8月)
 1971年8月15日、アメリカのニクソン大統領は、世界に向けて、これ以上アメリカの金が国外に流出するのを防ぐため、ドルと金の交換を停止することを宣言します。これがニクソン・ショック(ドル・ショック)です。アメリカがドルと金の交換を停止するということは、今までのように世界の人たちが安心してドルを使えなくなり、ブレトンウッズ会議で約束した金・ドル本位制、固定相場制を維持できなくなったことを意味します。これにより、世界中の人たちが、再び経済混乱が訪れ、ブロック経済のような悲劇が起こることを恐れました。

●スミソニアン協定(1971年12月)
 同じ年の12月、この問題に対応するために、世界の代表がアメリカのワシントンにあるスミソニアン博物館に集まって会議を開きました。話し合いの結果、確かにアメリカの失態により、今までの制度をそのまま維持するのは無理だけれども、ドルを基軸通貨として使い、各国通貨の価値価値が固定されているのはとても便利なので、ドルの価値を下げた新たな交換比率を設定し直すことにより、今までの制度を引き続き使っていくことにしました。その結果、金とドルの交換比率も「金1オンス=35ドル」から「金1オンス=38ドル」に引き下げられ、円とドルの交換比率も「1ドル=360円」から「1ドル=308円」の円高ドル安の為替相場に変更されました。この協定のことをスミソニアン協定といいます。

●キングストン合意(1976年)
 スミソニアン協定がまとまったおかげで、あとはアメリカが無駄遣いをやめ、これ以上ドルの価値が下がらないように努力さえしてくれれば、問題なかったのですが、残念ながらその後もベトナム戦争は長引き、アメリカの無駄遣いも止まらなかったので、ドルの価値はさらに下がり続け、結局このスミソニアン協定も無駄なものに終わってしまいます。その結果、各国は次々に固定相場制をあきらめ変動相場制に移行しました。そして、1976年にジャマイカの首都のキングストンにおける会議で結ばれたキングストン合意で、各国は正式に固定相場制をあきらめ、変動相場制に移行することを確認します。

●変動相場制の時代
 変動相場制とは、その通貨への需要が変化することにより、毎日、毎分、毎秒ごとに通貨の価値が変動する制度です。つまり、円の需要が高まると、円の値段が高くなる円高になり、円の需要がなくなると、円の値段が安くなる円安になります。

 そもそも円高、円安が発生するとはどういうことでしょうか? 我々一般庶民にはなかなかイメージし辛いのですが、円やドルなどの通貨も、食べ物や携帯電話と同じ商品だと思って考えてみてください。人気が高く需要が増えた商品は値上がりしますし、人気のない需要が減った商品は値下がりしますよね。では、円の人気が高くなり、円の需要が増える時というのはどんな時でしょうか? それはずばり、外国人が日本製品を買う時です。外国人が日本製品をたくさん買えば買うほど、彼らは日本人に対して円で支払う必要が出てきて、円をたくさん手に入れようとし、円の価値が高くなる。つまり円高になります。

 しかし今度は円高になりすぎると、外国人から見た日本製品の値段が高くなります。すると、外国人は日本製品を買うのを控えるようになり、円を手に入れる必要もなくなります。その結果、円の価値が低くなる円安になります。

 しかし、円安になれば、外国人から見た日本製品の値段が安くなって、外国人が日本製品を買うようになり、円が必要となってまた円高になって…ということが延々と繰り返されます。その結果、円の値段(円と他国通貨との交換比率)も、アダムスミスの神の見えざる手に導かれて、いつかはちょうどいい値段に落ち着くので大丈夫! というのが、本来の変動相場制の利点…のはずでした。

 つまり、日本の円も、日本製品を買いたい人が増えれば彼らが円を手に入れ円高になり、彼らが円を手放せば円安になるはずでしたが、実際には世界中の通貨のほとんどがそんな貿易目的の人たちではなく、ヘッジファンドと呼ばれる投資家たちに買い占められ、彼らにより人為的に円高・円安が作られています

 というのが、変動相場制を使って、ギャンブル的にお金儲けをすることができるのです。例えば、2021年の1月に1ドル=103円の時に、みなさんが103億円のお小遣いを1億ドルに両替して1年間保管します。そして1年後の2022年1月の1ドル=115円になった時に、1億ドルを円に両替し直すと、あら不思議! 円とドルを両替しただけなのに103億円が115億円になり12億円ももうかってしまいました。

 つまり、一般庶民であるみなさんであっても、今後値上がりしそうな外国通貨を見つけて円と両替し、値上がりがピークだと思ったときに円に戻すことによって大儲けすることは可能です。さらに、経済学を勉強して国際経済のしくみを知れば知るほど、もうかる可能性は高くなるでしょう。

 しかし、(自称)経済学者である私は、お小遣いの一部で株や投資信託を買い、お小遣いを増やすことはあるのですが、ドルやユーロなどの外国通貨には手を出そうとは思いません。なぜなら、私が、好きな会社の株を買えば、私が株を買うために払ったお金を使って、その会社が素晴らしい商品を開発するかもしれません。あるいは、私が投資信託を買ったお金が、今から成長しそうな会社に貸し出され、経済を活性化させるかもしれません。このように、私にとって、投資は人助けであり、応援したい分野にお金を託して、そのついでに私のお金もちょこっと増やしてもらうという感覚です。

 それに対し、変動相場制を利用した通貨の両替は、言ってしまえば、お金を移動させるだけであり、ギャンブル的な要素がかなり強いように思います。

 そのことを強く感じたのが2011年の東日本大震災でした。円高の歴代最高記録は東日本大震災から7か月後の2011年10月に記録した1ドル=75円です。東日本大震災の被害を受け、日本は東北地方からの部品供給がストップして製品を製造することができず、日本製品を外国に売ることができずに不景気になったので、円安になるのが普通のような気がするのですが、この時はなぜかむちゃくちゃな円高になってしまいました。

 原因としては、日本を復興するための資金が海外から日本に集中したことがあります。私が良く覚えているのは、台湾のテレビ局が震災の1週間後に日本に義援金を求めるチャリティー番組を企画し、日本円で21億円ものお金を集めることに成功していました。あるいは、世界中の著名人が日本に義援金を送ってくれたこともニュースで流れていましたが、個人的には親日で有名なアメリカの映画女優サンドラ・ブロックさんが100万ドルのお金を寄付したニュースを覚えています。

 これらのニュースを私は純粋に感動して見ていたのですが、ヘッジファンドたちはこう考えました。「彼らの義援金を日本人に渡すためには、自分たちの通貨を円に両替する必要がある。ということは、今のうちに仲間たちと円を買い占めてさらに円高になるように仕向け、大幅な円高になった時に両替し直せばもうかる!」

 この時の円高はもちろん日本を復興させるための資金が円に両替されたことも原因ですが、世界中のヘッジファンドたちが円を買い占めることにより人為的に円の値段を上げたこともあるでしょう。もしヘッジファンドたちが、東日本大震災の直後1ドル=85円の時に1億ドルを85億円に両替し、7か月後の1ドル=75円の時に85億円をドルに戻したら1億1333万ドルになります。

 例えば、サンドラ・ブロックさんの100万ドルも1ドル=85円の時に日本円に両替していれば東北の人たちに8500万円の義援金が届けられたのですが、ヘッジファンドたちにより作り出された1ドル=75円の時に両替してしまうと7500万円になり、1000万円も減ってしまいます。その1000万円はいったい誰のものになったのでしょうか…?

 今のように、外国の通貨の交換比率が毎日変わり、通貨を両替することによりもうけることの時代が続く限り、ヘッジファンドたちは、労働したり、何かを生産することもなく巨額の利益を上げ続けることができます。そう考えると、ブレトン・ウッズ会議ケインズが提案したバンコールが採用され、世界のお金が統一されていれば、こんなことはなかったのに…とも思ってしまいます。

2022年2月14日