25時間目:地球規模の問題

1.国際化
 私の周りを見ても、国際化というものを確実に実感できます。
 例えば、私の実家のある広島県の山奥の小さな町でも、ママチャリに乗った中国人、ベトナム人労働者を普通に目にします。これは、私が小学生の頃からすると考えられないことです。あるいはスーパーではフィリピン産のバナナやアメリカ産の牛肉が買えるほか、ダイソーやユニクロなどで売られている安い中国製品は、私たちの生活に欠かせない必需品となりつつあり、身の回りは外国製品であふれています。

 外国に目を向けてみると、私が留学していたニュージーランドでは、走っている車の半分以上が日本車でびっくりしました。あるいはニュージーランドのテレビでは、日本のアニメ「ワンピース」や「ドラゴンボール」が放送されていてうれしくなりました。また、新婚旅行で行ったパリのデパートのおもちゃ売り場には、わざわざキティーちゃんコーナーが設けられていました。

 最近では、世界的なコロナ大流行により、ヒトやモノの流れは止まり、国際化の流れも止まってしまった感もありますが、人の流れが止まってもSNSなどを通じた情報の流れは、コロナ以前よりも流通するようになりました。
 私も、コロナ以降、外国に行くことはなくなりましたが、facebookで書き込まれた外国人の友人の英文を読むことにより、英語力と国際化の感覚を何とか失わずに済んでいます。

●グローバル化・ボーダレス化
 このような国際化が進んだ状態のことをグローバル化(=世界が一体となる状態)あるいはボーダレス化(=国境がなくなるような状態)と表現することがあります。微妙に意味は違いますが、ほぼ同じ意味でとっておいてもらってかまいません。

 最近心配なのは、多くの国で、自国民中心主義を掲げるような指導者が誕生し、グローバル化やボーダレス化を批判する動きが強くなっていることです。世界有数の民主国家と言われるアメリカですら、アメリカファーストを掲げるトランプが大統領に就任してびっくりしましたが、日本人の中にも、日本や日本人のことを考えるあまり、日本ファーストに陥り、他国や多民族に対して冷たい発言や、差別的な発言をする人を良く目にします。

 私自身ラッキーだったのは、1年間ニュージーランドに留学し、その後、仕事でハワイやオーストラリアの先生や生徒たちとも交流し、たくさん友人を作り、多くの人たちに親切にしてもらった思い出があることです。その一方で、日本と韓国の間には歴史的・政治的な問題があり、日本のことをよく思っていない韓国人や、韓国のことをよく思っていない日本人もたくさんいます。しかし、留学中、たくさんの韓国人の友人ができ、韓国人にたくさん助けられた思い出がある私からすると、韓国という国は大切な友人の国です。そんな私の経歴を知らない年配の人や右翼系の人が韓国の悪口を言っているのを聞くと、自分が悪口を言われているみたいに辛い気持ちになることがよくあります。

●多文化主義(マルチカルチャリズム)
 オーストラリアでは、以前は白豪主義と呼ばれる白人を優遇する政策を採用していましたが、それを撤廃し、海外からの移民や文化を積極的に受け入れる多文化主義(マルチカルチャリズム)に転換してから、他民族・多文化が共存する国として発展することができたという歴史があります。そのオーストラリアでも、最近ではオーストラリアファーストを掲げる政党が躍進し、多文化主義が脅かされているという話も聞きますが、多文化主義の成功例があるというのは勇気づけられる話です。

 国際国家に見えるアメリカでも、実はパスポートすら持っておらず海外に行ったことがないアメリカ人が多数派だという話も聞きます。国際化、多文化主義の感覚を身に着け、世界を平和にし、戦争をなくすためにも、ぜひみなさんも海外に進出し、たくさんの友人を作ることをお勧めします。

2.NGOとNPO
 国際化がすすんだおかげで、国際問題もたくさん出てきました。国際問題は、それぞれの政府の代表が国連などに集まって話し合い、解決しようとするのが基本ですが、国際化が進むにつれて、それらの問題を解決するために色々な国の人たちが国家の枠を超えて集まり、独自の組織を作るようになって来ました。そんなNGO(非政府組織)という組織が国際社会において大きな役割を果たすようになりました。

●NGO(非政府組織)
 NGO(非政府組織)とは政府でも企業でもない組織と考えてみるといいでしょう。政府機関でないので、自分の国だけをひいきせず、世界全体のことを考えることができます。あるいは企業のように民間機関でありながら、お金儲けすることが目的ではありません
 お金儲けが目的でないので、多くのNGOが寄付金などを使って運営されています。しかし、NGOの中で働いている人もいますので、彼らには給料を払ってあげる必要があります。よってNGOの中にも最低限のお金を稼いでいるところもありますが、あくまで最低限です。よって、大金持ちになりたい人はNGOに就職することはお勧めしません。最低限の収入を得ながらでも、世界の人々のために働きたい! こういう野心がある人でないとなかなかNGOというのは務まらないと思います。

 主なNGOをまとめます。

アムネスティ
インターナショナル
「良心の囚人」と呼ばれる、宗教や思想の違いを理由に、独裁者などに刑務所に入れられている人たちを釈放してもらうために活動するという団体。国際連合とも協議資格を持つ。1977年にノーベル平和賞を受賞。
赤十字国際委員会 戦争中に、どこの国の人でも平等に治療をすることを目的に作られた、医療団体。つまり、「おれは日本人の医者だから、日本人の兵隊は治療するけど、アメリカ兵のケガ人にはとどめを刺すよ」なんていう医者を批判。スイス人のアンリ・デュナンにより設立。アンリ・デュナンがノーベル平和賞の記念すべき初代受賞者であるほか、組織としても1917、1944、1966年と3度もノーベル平和賞を受賞。
国境なき医師団
(MSF)
赤十字で医療活動をしていた医師たちによって作られた世界最大の国際緊急医療団体。中立性を重視する赤十字と違い、戦争や貧困などの問題解決を政府やメディアに意見を行うという積極性を持つ。1999年にノーベル平和賞を受賞。
地雷禁止国際キャンペーン
(ICBL)
世界中で活動する対人地雷の製造と使用の禁止を目的として活動するNGOの連合体。世界で1000以上の団体が加盟。この人たちの活動の結果、1999年に対人地雷禁止条約が締結される。1997年にノーベル平和賞を受賞。
パグウォッシュ会議 イギリスの数学者ラッセルとユダヤ人物理学者アインシュタインが核兵器廃絶を訴えたラッセル・アインシュタイン宣言に基づき、核兵器廃絶を訴えた科学者たちにより結成。1995年にノーベル平和賞を受賞。
核兵器廃絶国際キャンペーン
(ICAN)
世界各国政府に対し、核兵器禁止条約の批准を呼びかけるNGOの連合体。彼らの活動の結果、2017年に核兵器禁止条約が採択され、この年にノーベル平和賞を受賞。
グリンピース 環境問題、野生動物の保護などを訴えるNGO。その活動が過激になることがあり、彼らの手法がエコテロリズムとして批判されることもある。日本に対しては食用捕鯨の禁止を訴えた団体として有名。


●NPO(非営利団体)
 NGO似たような言葉としてNPO(非営利団体)というのがあります。何が違うかというと、やっていることはNGOとほぼ同じだと思ってください。ただ、国際的な活動をするような大規模な団体NGO国内活動が中心で小規模な団体NPOと呼ぶ傾向があります。特に、日本では1998年にNPO促進法(特定非営利活動促進法)が制定されてから、NPOを作り、税金の優遇などの政府からの支援も受けられるようになり、この頃からNPOの活動が注目されるようになりました。

3.情報化社会
 情報化社会の進展が国際化を推し進めました。特に、インターネットなどのコンピュータネットワークの発達IT化)が世界の一体感を強め、グローバル化・ボーダレス化を実現しました。

 SNSやメールを使って、世界中の人たちとやり取りできるというのは先ほど説明しましたが、それ以外にもAMAZONや楽天などのインターネットショッピングも一般化しました。そんなインターネットを使って可能となった電子商取引のことをeコマースといいます。eコマースが発達することにより、わざわざ家賃を払って店舗を構えなくてもウェブ上のお店でお店や会社が開けるようになり、SOHOと呼ばれる在宅小規模経営(Small Office Home Office)も普及します。また、最近ではpay payなどの電子マネーも普及し、現金を使わずにお金を払うことも普通になりました。

 コロナをきっかけにリモートワークを実施する企業も増えてきました。私の学校でもオンライン授業をしろという命令が上から出て、慌ててオンライン授業を実施させられました。私が担当している3年生は対面授業が継続されたため、私はオンライン授業をしなくて済みましたが、このような技術はできないよりは、できるようになったほうが将来は絶対役に立つことはわかっています。

 しかし、情報化社会は便利なことばかりではありません。例えば、パソコンやスマホが普及すればするほど、使いこなすことができる人とできない人の間に情報格差が広がるデジタル・ディバイドが起こっています。私も数年前まではどちらかというと、使いこなせているほうの人間だったのですが、ガラケーからスマホに変更するのを長らく抵抗し続けた結果、数年前に購入したスマホをほとんど使いこなすことができず、使えない側の人間になりつつあります。

 また、パソコンやスマホを使い続けることによりストレスがたまるテクノストレスも問題となっています。スマホというものは連絡を取り合い、情報を得るのには便利ですが、スマホにどっぷり浸かり中毒になってしまうと、逆に害になってしまいます。高校生の多くがLINEやインスタのチェックや更新に時間を取られ、コミュニケーションを円滑にするはずが、逆に人間関係を崩す原因にもなっているという話もよく聞きます。

 私自身、あまりSNSに振り回されないように気を付けているつもりですが、この間、ある年配の先生から「飛垣内先生がいいねを付けてくれないから、嫌われているんじゃないかと、〇〇先生が気にしていたよ。」という情報を聞き、慌てて〇〇先生のSNSや動画にいいねをつけまくりました。大人ですら、こういうことがあるぐらいだから、中高生の世界でどんなことが起きているのか・・・、申し訳ないですが、自分が中高生の時にスマホがなくて、本当に良かったと思います。

 GAFAと呼ばれる企業の世界的な影響力が国際問題となっています。GAFAとは、Google,Amazon,Facebook,Appleの4社のことで、どれも世界的に活躍する大企業です。これらの企業のサービスを利用することにより、私たちの生活はより快適なものになりましたが、私たちがサービスを利用すればするほど、私たちの情報がこれらの企業に蓄積され、彼らが独占した私たちの個人情報が彼らのビジネスに利用されいています。このようにして彼らが集めたデータはビッグデータと呼ばれ、重宝され、恐れられています。

 あなたが、これらのサービスを利用すればするほど、彼らはあなたの位置情報や、検索履歴、購入履歴を記録し、あなたという人間を分析、把握していきます。私がネットを利用している時の広告は、健康食品やお酒、育毛剤などが多く、明らかに中年のおっさんであることがバレています。これらの情報が私たちの知らないところで利用されていると考えると、便利な反面、プライバシーもくそもない恐ろしい世界になったとつくづく思います。

4.人口問題
 私が高校生の頃(1990年頃)は、地理のテスト勉強で、世界人口は約50億人と暗記した記憶があります。しかし、2022年の時点で世界人口は79億人となり、80億人を超えるのも時間の問題です。これは、1年間に約7400万人、世界人口が増えている計算になり、1日に20万人、1時間に8400人、1分間に140人、1秒間に2人ずつ増えているということになります。またこれは、1年間に6300万人が死んで、1億3700万人が産まれている計算になります。

 このように人口が急激に増えることを口爆発といいます。人口爆発は特にアジアやアフリカの発展途上国で起こってます。なぜなら貧しい国では、子どもたちは貴重な労働力だからです。しかし、貧困から脱出するために子供をたくさん作るものの、貧困から抜け出すことができず、子供が増えることにより生活費がさらに増え、結局はさらに貧困になるという悪循環に陥ることのほうが多いようです。

●マルサスの『人口論』
 人口爆発を200年も前に予想していた人がいました。マルサスです。マルサスですよ。社会主義者マルクスとごっちゃにしないでください。マルサスは『人口論』という本の中で、「食料は等差数級的(1,2,3,4,5,6,7…)に増加するが、人口は等比数級的(1,2,4,8,16,32,64…)に増加する。」と予言して、食料の増産が人口の増加に追いつかないことを警告しました。当時、この意見は「そんなわけねえよ!」とバカにされていたんですが、マルサスが死んで200年以上たった今、危機は現実となりつつあります。そういった意味ではマルサスはえらかったと思いますが、ただ彼は、そんな人口問題の解決策として、「結婚を控え、戦争をたくさんすることが、人口を減らすためには必要だ。」なんてことを言っています。「なるほど~」なんて思わないでくださいね。人口問題を解決するためには「みんな死んでしまえばいいんだ」なんて、エヴァンゲリオンみたいなことを考えないでください。もっと平和的な解決方法を考えましょう。

●中国の一人っ子政策
 現在約14億人という世界の5分の1の人口をかかえる中国は1979年から一人っ子政策を実施しました。これは、一組の夫婦が生んでもいい子供は1人だけであり、2人目以上を生んだ家庭は、給料の10%をカットするなどのペナルティを科すという過激な政策です。この政策は人口を抑制することに関しては効果はあったのですが、2人目が産まれても政府に報告しなかったり、どの家庭も一人っ子なので、あまやかされてわがままな子どもが増えたりと、問題も多く抱えてました。ちなみに、私が留学中に通っていた語学学校の、英会話クラスに3人の中国人がいましたが、授業中に先生が、「あなたたちの兄弟のことについて話してください」の問いに、彼らは全員、「兄弟はいません」と答えたのには、本当に一人っ子政策をやっているんだということを実感させられました。

 一人っ子政策により急激な少子高齢化が進んでしまったため、中国は2016年に一人っ子政策を廃止しました。これにより、中国人夫婦も2人以上子供を作ってもよくなったのですが、長らく続いた一人っ子政策のため、中国人は一人の子供にたっぷりお金をかけてじっくり育てる子育てが定着してしており、2人以上子供を作ることに消極的な夫婦が多く、一人っ子政策廃止の効果はあまり出ていないようです。

●性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ライツ)
 1994年にエジプトのカイロで開かれた国際人口開発会議は、人口問題に関してかなり前向きな話し合いが行われ、会議の結果、「性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ライツ)」が強く認識されることとなりました。「性と生殖に関する健康と権利」とは、子どもを産む、産まない、何人産むかは女性が決めるという権利のことです。というのが、多くの発展途上国では、宗教上の理由や慣習から「女性の仕事=子どもを産んで育てること」という考え方が根強くあります。ですので、女性が子どもを少ししか産まないのは、「女性としての仕事をサボっている」ということになり、多くの女性が、男性につくし、じっと家にこもり、家事のみに従事する。そう考えると、外に出ることもないから、社会常識を知る必要もない、つまり女は学校に行く必要もないとすら考えられています。その結果、学校に行くという当たり前のことそしていただけなのに、曲がった過激な考え方を持った人から銃撃にあい、瀕死の重傷を負いながら、女性が学ぶことの必要性を訴えた15歳の女の子が、ノーベル平和賞も受賞したマララ・ユスフザイさんです。

 現時点での現実的な人口問題対策は、女性に地位を向上させ、女性の社会進出を促進させることだと思います。もちろん、子どもを産み、育てることも素晴らしい仕事ですが、女性の生きがいはそれだけではなく、人生の価値なんて人それぞれです。そのためにはまず、夫の命令でたくさんの子どもを作らされ、ひたすら子育てに励むだけの人生を拒否する「性と生殖に関する健康と権利」が必要になるわけです。

5.環境問題
 次は環境問題についてお話します。まずは主な環境問題を表にまとめて見ました。

  地球温暖化 酸性雨 オゾン層破壊 森林減少・砂漠化
原因 二酸化炭素などの
温室効果ガス
窒素酸化物(NOx)
硫黄酸化物(SOx)
フロンガス 森林伐採、農地の拡大
異常気象
被害 気温が上昇し、陸地減少
異常気象発生
森林が枯れ、
建造物が溶ける
有害な紫外線が増え、
皮膚がんが増加
居住地区の減少
食糧不足による飢餓
主な
被害国
南太平洋の島国
オランダ、バングラディシュ
のような低地国
北ヨーロッパ
北アメリカ
南極、オーストラリア
ニュージーランド
サハラ砂漠周辺国
中国


●地球温暖化
 小さな島国のツバルモルジブ、国土のほとんどが低地のオランダバングラディシュなどは、地球温暖化による海面上昇により、国が消滅する危機に直面しています。

 実は私も、南太平洋のマーシャル諸島という島国に行ったことがあるのですが、この国の首都マジュロでは、標高が一番高い場所でなんと標高7m! マーシャル諸島は、サンゴ礁の上に砂が積み重なってできた国なので、温暖化による海面上昇が起きれば、すぐにでも沈んでしまうことがわかる状態でした。実際、海岸をジョギングしていると、大量のヤシの木が倒れており、今までは波がやってこなかったヤシの木の根元にまで、波がやってくるようになり、波に砂や土をさらわれることにより、ヤシの木が大量に倒れており、この国が消滅しつつあることがよくわかりました。これらは温暖化により南極、北極などの寒冷地の氷河が溶け、海面が上昇しているのが原因と言われています。

 日本でも、暖冬や猛暑、記録的豪雨などが増えているのは、地球温暖化による異常気象が原因ではないかといわれています。このように、二酸化炭素、メタンガス、フロンガスなどの温室効果ガスはじわじわと地球を痛め、私たちの生命も危険にさらしているのです。

●酸性雨
 主に自動車の排気ガスに含まれる窒素酸化物(NO)、工場の排気ガスに含まれる硫黄酸化物(SO)が雨雲の中で水(H2O)と化合し硝酸(HNO)、硫酸(HSO)となって降ってくるのが、酸性雨です。

 硫酸と言えば、個人的に頭に浮かぶのが映画「エイリアン」です。この映画に出てくる化け物エイリアンの血液は硫酸でできており、宇宙船内で人間がエイリアンと戦い、エイリアンを傷つける度に、硫酸がまき散らされ、人間や宇宙船が溶けるという恐怖のシーンを私は少年時代に見て、硫酸の怖さを実感しました。そんな硫酸が空から降ってくる酸性雨、ほんと恐ろしい事態です。

 そんな危険な雨のせいで、ヨーロッパでは森林や大理石の建造物が溶けたり、酸化した湖の魚たちが全滅してしまう事態が発生しました。特に、酸性雨でやっかいなのは、酸性雨の雨雲は風に乗って移動するため、ドイツが出した排気ガスでスウェーデンの森が枯れたり、アメリカの排気ガスでカナダといったように、ある国のわがままが他の国に迷惑をかけているところです。ひどい話です。

●オゾン層破壊
 太陽から放出される有害な紫外線から生物を守るため、私たちの住む地球上空にはオゾン層というものがあります。しかし、クーラーや冷蔵庫などの冷却用などに使われていたフロンガスが空気中に排出され、オゾン層まで上昇することにより、オゾン層が壊される事態が発生しました。これがオゾン層破壊です。オゾン層が破壊されることにより、太陽から発せられる紫外線が強くなり、皮膚がんなどの発生率が高くなるなどの影響が報告されています。

 オゾン層の破壊が特に進んでいるのが南極周辺です。南極では、オゾン層が極端に薄くなったオゾンホールが度々確認されています。私も、南極に近いニュージーランドで生活してましたが、一緒に働く先生たちの中に予想以上に皮膚がんにかかった先生が多くてびっくりしました。ニュージーランドの紫外線の量は日本の7倍と言われているだけあり、夕方、太陽の方向に向かって歩くときは、太陽光線がまぶしくて前が見えず苦労した経験がありましたし、天気のいい昼間にジョギングをした次の日は、必ずといっていいほど顔の皮がむけました。たった2時間しか外にいなかったのに…!

●森林減少・砂漠化
 森林減少砂漠化は、地球温暖化も原因の一つとされています。特に、アフリカのサハラ砂漠周辺のサヘル地域は、昔は草原が広がって農業もできていた地域も多かったのに、最近は気温が急激に上がり、極端に雨が少なくなりました。そのせいですっかり、草木が枯れ、植物が育たなくなり、いつの間にかサハラ砂漠の一部になってしまいました。そして、住んでいた村が砂漠に飲み込まれてしまった人々は、住む場所を失い、貧困に苦しむという悪循環も生み出してしまっています。

 そんな彼らの貧困を、私たちが排出した二酸化炭素が作り出している可能性もあるのです。

 環境問題については、20世紀中盤当たりから、警告を発する著書やレポートがたくさん出てきました。有名なものをまとめます。

『沈黙の春』 アメリカのレイチェル・カーソンが、DDTなどの農薬が生態系に及ぼす危険性を訴えた、世界初の本格的な環境破壊の警告本。当時のケネディ大統領も関心を持ち、大きな話題となった。
『成長の限界』 この本の中で、世界的な科学者の集まりであるローマ・クラブが、このまま環境破壊がすすむと、近い将来に人類は滅亡してしまうことを警告。
「宇宙船地球号」 アメリカの経済学者ボールディングはこの言葉を使って、地球は一つしかない貴重な乗り物であり、われわれもその乗組員の一人であることを意識し、様々な問題に取り組まなければならないことを主張。
『不都合な真実』 地球温暖化の危機を描いたドキュメンタリー映画。この映画のヒットにより、主演のアメリカ元副大統領ゴアと、地球温暖化の問題を指摘し続けたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がノーベル平和賞を受賞。

 

6.国際環境会議・条約
 地球環境問題は、1つの国が頑張っただけで解決できる問題ではありません。そこで、環境問題を解決するため、国際会議が開かれたり、国際条約が結ばれています。

年号 事件 内容
1971 ラムサール条約 水鳥の生息地として貴重な湖沼や湿地を指定して、保護していくための条約
 ※日本では釧路湿原、琵琶湖などが指定
1972 国連人間環境会議
inストックホルム
「かけがえのない地球」をスローガンに環境問題について話し合う。
・環境問題に取り組む国連の専門機関としてUNEP(国連環境計画)を設置。
・会議の成果は人間環境宣言にまとめられる。
1975 ワシントン条約 絶滅が心配される野生動物を指定して、保護するための条約
 ※マウンテンゴリラ、オランウータン、パンダ、サイなどが指定
1979 長距離越境大気汚染条約 酸性雨の被害の多いヨーロッパにおいて、窒素酸化物、硫黄酸化物の削減を目標とする。
1987 モントリオール議定書 1985年のウィーン条約からの話し合いにより、1995年までにオゾン層破壊の原因となる特定フロンを全廃することを決定。
1989 バーゼル条約 ダイオキシンなどの有害廃棄物の国境を越えた廃棄の禁止。
1992 国連環境開発会議
(地球サミット)
inリオデジャネイロ
「持続可能な開発」をスローガンに環境問題について話し合う。
・会議の成果はリオ宣言にまとめられる
アジェンダ21…21世紀に向けて国・企業・個人などが環境のために 守っていかないといけない行動計画をまとめたもの
生物多様性条約…生物をその生息する生態系とともに保存し、遺伝子資源の利益を公平に分配することを目的とした条約
気候変動枠組条約…地球温暖化を食い止めるための条約
1994 国連砂漠化対処条約 砂漠化の進行を食い止めるための国際協力の推進を目的
1997 京都議定書 第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)において締結。
・1990年の温室効果ガス排出量を基準に、2008~2012年の5年間に削減する温室効果ガスの具体的な数値を設定する。例:EU諸国(-8%)、アメリカ(-7%)、日本(-5%)
※欠点 ★当時世界最大の温室効果ガス排出国のアメリカが脱退
 ★発展途上国には(なぜか中国、インドも)設定基準がないので、排出は自由
 ★お金を払えば、温室効果ガスを排出する権利を他国から買い取ることもできる(=排出権取引
 ★他国の温室効果ガス削減に貢献した成果も削減量に換算される(=クリーン開発メカニズム
2002 環境開発サミット
inヨハネスブルグ
・各国首脳が集まり、アジェンダ21の達成度合いを評価
※アメリカのブッシュ大統領や、ロシアのプーチン大統領も参加しなかったため、会議的にはあまり盛り上がらなかった。
2010 名古屋議定書 生物多様性条約の締約国より、遺伝資源の利用(植物や動物の医薬品などへの利用)から生じる利益を公平に配分するルールを定める。
2012 国連持続可能な開発会議
(リオ+20)
inリオデジャネイロ
・環境保全や持続可能な循環型社会を基盤としながら、経済成長、雇用創出、技術革新を実現していくグリーン経済について話し合われる。
・この会議の流れから2015年に国連持続可能な開発サミットが開かれ、2030年までに実現する目標としてSDGs(持続可能な開発目標)が設定。
2013 水俣条約 有害な水銀と、水銀を使った製品の生産と輸出を禁止
2015 パリ協定 第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において締結。
・産業革命以前と比較して世界の平均気温上昇を2℃より十分に低い状態に保ち、1.5℃に抑える努力をする。
発展途上国を含む締約国が各自で温室効果ガスの削減目標を設定するが、目標の達成義務はない
⇒2017年にアメリカが脱退


●国連人間環境会議(1972年)
 1972年、環境問題をテーマにした世界初の本格的な国際会議として「国連人間環境会議」がスウェーデンのストックホルムで開かれました。この時のスローガンが「Only One Earth(かけがえのない地球)」。つまり1個しかない地球を大事にするために、みんなで環境問題に真剣に取り組もうね!というのがこの会議のテーマでした。そして、この会議の成果として国連に環境問題に取り組む専門機関としてUNEP(国連環境計画)も設置されます。

 しかし、この会議以後に課題となったのが、「環境問題に取り組む=便利な生活を我慢する」ということです。具体的に言うと、今まで散々地球を汚しながら経済発展してきたアメリカ、日本、ヨーロッパなどの国々は、十分金持ちだから汚してきた罰として「便利な生活を我慢」してもいいかもしれませんが、貧しい発展途上国の国々はせっかく今から工業化を目指していこうとしても、環境問題のために、工業化を制限されるというのは、貧困から抜け出せず、かわいそうだということです。つまり、今までの工業国と未来の工業国の間である世代間不公平が課題となりました。

●国連環境開発会議(1992年)
 その反省を生かし、国連人間環境会議の20周年を記念した1992年に「国連環境開発会議(地球サミット)」が、ブラジルのリオデジャネイロで開かれました。このときのスローガンは「持続可能な開発」つまり、環境問題に取り組みながらも、環境に悪影響を与えない方法で便利な生活は続けようと言う考えです。

 このスローガンを見る限り、地球のことを考えたら、20年前よりも考え方が後退してしまったような気もします。しかし、発展途上国とも協力して環境問題に取り組むには、こういう考え方が現実的なのかなと言う気もします。言い換えると「環境のために、原始時代の生活に戻る」のではなく、「環境のために、最新の技術を使って環境に悪影響を与えない経済発展を追及する」と言う方向に変わったということです。

 この会議で気候変動枠組条約が採択されました。この条約ができることにより、世界の国々がより協力して地球温暖化問題に取り組むことになり、この条約を結んだ国々による会議であるCOPが1995年から開かれることになりました。

●京都議定書(1997年)
 COPの第三回目の会議(COP3)が日本の京都で開かれ、この会議で京都議定書が作られました。京都議定書が画期的だった点が、各国が削減する温室効果ガスの具体的な数値目標が設定されたことです。まず、1992年に各国がどれだけ温室効果ガスを排出していたのかを調べ、その時の排出量から、EU加盟国は-8%、アメリカは-7%、日本は-6%という風に、2008年から2012年までの温室効果ガス削減目標値が設定されました。

 このルールにより、温暖化問題の解決に大きく前進することが期待されましたが、当時、世界一の温室効果ガス排出国であったアメリカが「地球温暖化と二酸化炭素の排出に科学的な因果関係はない!」と言いながら、京都議定書から脱退してしまいます。あるいは、発展途上国はかわいそうなので、温室効果ガス削減義務を免除することになったのはまだいいのですが、この発展途上国に中国とインドが含まれることになってしまいました。つまり、当時、二酸化炭素排出量1,2,3位の国が、二酸化炭素削減義務を負わないことになってしまいます。

 さらに、京都議定書の特別ルールとして、京都メカニズムと呼ばれるルールが組み込まれました。まずは排出権取引です。排出権取引とは、もし温室効果ガスの排出量を削減できなかったとしても、目標以上に温室効果ガスを削減できた国があれば、その国にお金を払えば、その国が削減した温室効果ガスを買い取ることができる制度です。

 さらにクリーン開発メカニズムというのもあります。これは、発展途上国で森林を植えるなど、他国で温室効果ガス削減に貢献すれば、それを自分の国の温室効果ガス削減量にプラスしてもいいというルールです。

 そんな京都議定書に基づく温室効果ガス削減大会を2008年から2012年まで実施したところ、日本は、この5年間の平均として、1990年と比べて-6%の削減目標のところ-8.4%の温室効果ガス削減に成功しました! と、ここまでの話だと、「日本頑張ったじゃん!」と称賛してあげたいところですが、実際には+1.4%温室効果ガス排出量は増えました。どういうことかわかりますか? つまり、日本は京都メカニズムを利用しまくったわけです。日本は、温室効果ガスは増えてしまったけれど、他国にお金を払って、他国が温室効果ガスを削減した権利を買い取り、あるいは東南アジアなどにお金を払って、工場の設備を二酸化炭素が出にくいものに変えてあげるという努力により、ルール上は温室効果ガスの削減に成功したわけです。つまり、お金の力によって強引に目標をクリアしてしまったわけです。なんか複雑ですね・・・。

 そうは言っても、世界中が二酸化炭素を減らす意識を持つことができた点で京都議定書は成功だったような気がします。しかし、そんな京都議定書レースが2012年に終了し、2013年からの新たなルールが必要となりました。そんな中、中国やインドは「京都議定書は素晴らしいルールだから、2013年以降も京都議定書で二酸化炭素削減を頑張っていこう!」と主張します。そりゃそうですよね。京都議定書だと中国やインドは二酸化炭素を削減しなくてもいいんですから。

 それに対し日本は、「世界の二酸化炭素を減らすためには、中国やインドにも協力してもらわないと意味がない」と、京都議定書を終了し、新しいルール作りを主張します。皮肉ですよね。日本で作った京都議定書に日本が反対するような形になってしまいました。

●パリ協定(2015年)
 そんな対立が続いた結果、新しいルール作りは先延ばしされ、最終的に2015年に京都議定書の後継ルールとしてパリ協定が作られました。パリ協定の最大の成果は中国やインドを含む発展途上国にも温室効果ガス削減が義務化されたことです。しかし、京都議定書と違って、どの国がどれくらいの温室効果ガス削減に取り組むかは、各国が独自に目標を設定し、独自に目標に向かって努力するだけで、もし目標が達成できなくても罰則もないという、かなりあいまいなものとなりました。つまり、国によってはやる気のない緩い目標を掲げても別に問題はないし、目標達成どころか二酸化炭素が増えたとしてもルール上は問題ないということです。

 罰則はないとは言っても、世界中の国が頑張ろうとしてる中、あまりにやる気がないと国際的な非難は浴びるはずです。そのあたりの各国の良心に期待するしかありません。そんな中、パリ協定も残念ながらアメリカが脱退してしまいました。パリ協定締結にはアメリカのオバマ大統領がかなり貢献したのですが、そのオバマ大統領の後に大統領に就任したトランプ大統領はオバマ大統領のことが大嫌いだったので、大統領就任直後にパリ協定からの脱退を宣言してしまったのです。

 最後に、2018年の二酸化炭素排出割合上位20カ国を紹介しておきます。ぜひ知っておいて欲しいのは、中国、アメリカ、インドのたった3ヶ国だけで世界の二酸化炭素の半分を排出しているということです。もちろん、日本も二酸化炭素を削減することが大事ですが、この3ヶ国が本気で二酸化炭素削減に取り組むだけで、地球温暖化問題はほぼ解決してしまうということです。特に中国とアメリカはそのことをもっと自覚してほしいと思います。

中国 28.4%   日本 3.2%   カナダ 1.7%   13 南アフリカ 1.3%
アメリカ 14.7%   ドイツ 2.1%   10 インドネシア 1.6%   14 ブラジル 1.2%
インド 6.9%   韓国 1.8%   11 サウジアラビア 1.5%   15 オーストラリア 1.1%
ロシア 4.7%   イラン 1.7%   12 メキシコ 1.3%   16 トルコ 1.1%

 

7.公害問題
 世界的な環境問題の次に、国内の環境問題、つまり公害についてです。

 日本で初めて公害が問題となったのは、明治時代の足尾銅山鉱毒事件ですが、その後、公害が深刻な問題になり、日本人が公害を強く認識するようになったのは1960年代、高度経済成長期の四大公害裁判の頃からです。

  新潟水俣病 四日市ぜんそく イタイイタイ病 水俣病
裁判の始まり 1967年 1967年 1968年 1969年
主な場所 新潟県阿賀野川 三重県四日市市 富山県神通川 熊本県水俣市
原因 川に流された
有機水銀
大気に放出された
亜硫酸ガス
川に流された
カドミウム
海に流された
有機水銀
症状 手足がしびれて感覚が麻痺し、目耳が不自由になり、重症化すると死に至る。 息苦しい、のどが痛いなどの激しい喘息症状が出て、重症化すると死に至る。 全身の骨や内臓がもろくなり、痛みのために動けなくなり、衰弱により死に至る。 手足がしびれて感覚が麻痺し、目耳が不自由になり、重症化すると死に至る。


 これらの裁判において唯一よかったのは、全ての裁判において被害者の住民たち(原告)が裁判に勝ち、企業から賠償金をもらうことに成功したことです。とはいっても、病気で亡くなった人たちが戻ってくるわけではないので、大喜びというわけにはいきませんが・・・。

 ただ、これらの裁判が話題になった頃から、日本政府も本気で環境対策に取り組むようになりました。

年号 事件 内容
1967 公害対策基本法 ・7つの公害(大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭)を認定し、行政による公害対策が始まる。
・当初は「産業の発展を邪魔しない程度に環境問題に取り組む」という環境調和条項があったが、1970年の公害国会で削除される。
1971 環境庁の設置 環境問題に取り組む専門の行政機関が設置。
1973 OECD総会でPPP
(汚染者負担の原則)を採択
・公害の汚染者が公害防止費用や被害者救済の費用を出すべきだとする考え。
⇒日本では公害健康被害補償法などで採用
1993 環境基本法 公害問題だけでなく、地球環境問題にも対応するため、公害対策基本法を発展的に解消する形で成立。
1997 環境アセスメント法 ・国が大規模な開発を行うときには、事前に環境に与える影響を調査することを義務付ける。
・長期間工事が中断したり、効果が上がっていない公共事業は見直しを行う。
1997 容器包装リサイクル法 ・ペットボトル,ビン,紙パック,プラスチック容器のリサイクルの促進。
・地方自治体(市町村)が分別回収し、リサイクルの費用は企業が負担。
1999 ダイオキシン類対策特別措置法 ごみ焼却場や工場からのダイオキシンの削減を目標。
2000 循環型社会形成推進基本法 廃棄物の有効利用を進め、3つのR(リデュース、リユース、リサイクル)の促進が目標とされる。
2001 環境庁が環境省に格上げ 政府内でも環境問題がより深刻な問題と認識され、より強い立場で環境問題に取り組む。
2001 家電リサイクル法 ・冷蔵庫、エアコン、テレビ、洗濯機を小売店が回収してリサイクルする。
リサイクル費用は消費者が負担
2002 フロン回収破壊法 フロンガスの回収、破壊を業者に義務付ける。
2005 自動車リサイクル法 自動車を購入する時の料金に、自動車を捨てる時のリサイクル費用が上乗せされるようになる。
2006 石綿健康被害救済法
(アスベスト新法)
建築材の材料などで使われたアスベスト(石綿)による健康被害を受けた患者、遺族の救済を目的とする。
2011 固定価格買取制度
再生可能エネルギー(太陽光、風力など)で充電した電力を一定の価格で電力会社に買い取らせることが義務付けられる。
2012 地球温暖化対策税 石油石炭税に上乗せされる形で課税され、化石燃料消費削減に貢献する環境税(炭素税)の一種として採用。
2013 小型家電リサイクル法 鉄、アルミ、金、銀、銅、レアメタルを再生利用するため、使用済みのパソコン、携帯電話、デジカメの回収・リサイクルを促進。
2016 電力自由化 その地域の大手電力会社だけでなく、新規の発電事業者からも電気を購入することが可能になる。


●公害対策基本法(1967年)⇒環境基本法(1993年)
 四大公害裁判が世間をにぎわせる中、日本政府もやっと公害規制のための法律を作りました。それが1967年の公害対策基本法です。しかし、この公害対策基本法には、「経済の健全な発展との調和」を図ることを目的として公害対策を行うという環境調和条項が盛り込まれていました。これは、経済の発展の妨げにならない程度に公害対策を行うという意味であり、当時の日本政府の公害対策のやる気・危機感のなさが問題となりました。しかし、この環境調和条項も1970年の国会で削除されます。この時の国会のことを公害国会と言います。

 私も中学生の時に、公害対策基本法で認定された7つの公害は何? 正解は大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭! なんてことを暗記した記憶があります。そんな公害対策基本法も、私が大学生の時に廃止され、国内の公害問題だけでなく、世界的な環境問題にも取り組むため、環境基本法にパワーアップしました。そこまで真面目な大学生でなかった私は、法律が改正されたことに気づかず、大学卒業後、教員になり、自信満々で、今も公害対策基本法があるかのような授業をして、恥ずかしい思いをしました。

●濃度規制+総量規制
 空気中に排気される有害ガスや、川や海に垂れ流される工場排水などを規制するために、大気汚染防止法水質汚濁防止法が制定されましたが、当初の規制では、排気ガスや汚染水の濃度が規制される濃度規制が主流でした。しかし、濃度規制だと、薄めて排出すればルール上は問題なく、薄めたガスや汚水が大量に排出されてしまうと対策上あまり意味がありません。そこで、特に汚染がひどかった東京湾、伊勢湾、瀬戸内海などでは、排出される量を規制する総量規制が採用されています。

●汚染者負担の原則(PPP)・無過失責任制
 1972年のOECD総会で、汚染者負担の原則(PPP)が採択されました。これは公害を引き起こした人(企業)が、公害救済費用や環境復旧の費用を負担させるべきだという考え方です。日本の法律では、公害健康被害補償法などにこの考えが適用されています。

 あるいは、大気汚染防止法水質汚濁防止法には無過失責任制の考え方が導入されています。これは、たとえ企業側にミス(過失)が無かったとしても、公害救済費用を出さないといけないという考え方です。

 汚染者負担の原則(PPP)無過失責任制も、企業側からすると厳しすぎるような気もするのですが、それぐらい厳しくしないと、公害規制というのは難しいということです。さらに言えば、公害で被害を受けた人にまったく罪はなく、企業以上にかわいそうなわけです。

 高度経済成長のころは、日本と言えば、公害がひどく、空気も水も汚い国として有名でしたが、そのころと比べると、空気も水も見違えるほどきれいになりました。その原因の一つが、公害規制がうまく機能したこともあるでしょう。その結果、日本という国は、環境規制に成功した国として、国際環境会議でも一目置かれる国になっています。

 最後に、その他の環境用語・公害用語を解説しておきます。

エコマーク 「生産」から「廃棄」にわたるライフサイクル全体を通して環境への負担が少なく、環境保全に役立つと認められた商品につけられるマーク
ナショナルトラスト運動 自然環境を、無理な開発による環境破壊から守るため、市民活動によって買い上げたり、自治体に買い取りや環境保全を求める活動
エコツーリズム 観光客に、地域の自然環境や歴史文化などの魅力を伝え、その保全や地域振興を図る取り組み


8.資源・エネルギー問題
 環境問題、公害問題と切っても切り離せない問題が、資源・エネルギー問題です。

●日本
 日本では、1960年代高度経済成長期から、石油を中心とした化石燃料に依存する割合が高くなりましたが、1973年石油危機をきっかけとし、石油に依存し過ぎることに危険性を感じ、代わって、原子力に頼る割合が増えていきました。しかし、2011年東日本大震災における福島原発の爆発事故をきっかけとして、一旦すべての原子力発電所が稼働停止することとなり、足りなくなった電力はガス、石炭、石油を燃やす火力発電で補うことになりました。

●中国・アメリカ
 石炭が豊富に採れる中国は火力発電の割合が多い…と、私は長らく授業で教えてきましたが、東日本大震災以降、日本の火力発電への依存割合は中国を抜いてしまいました火力発電への依存度が高い中国やアメリカは、地球温暖化対策に消極的な国として有名ですが、電力割合では、日本は中国やアメリカよりも二酸化炭素削減に消極的な国となってしまいました。

●フランス
 石油危機後、日本以上に原子力発電に力を入れたのがフランスです。日本とフランスに共通するのが、石油、石炭、ガスなどの天然資源をほとんど自力で調達できないことです。その結果、フランスは69.9%を原子力発電に依存するという世界一の原子力大国となりました。その他に原子力発電依存度の高い韓国でも25.1%、スウェーデンでも39.3%ですから、かなり原子力に依存しているのがわかると思います。

 火力発電に依存が少ない点では、フランスは他国よりも二酸化炭素の排出が少ないということですが、フランス人は原発事故の危険とともに生活しているということにもなります。

●ブラジル
 ブラジルやカナダは、水力発電をするのに適した大きい川がたくさんあるので、水力発電が盛んです。水力発電ということは、二酸化炭素はほとんど排出しない点では環境にやさしいですが、水力発電に必要な巨大なダムを作るために自然を破壊する点では環境にやさしくありません。。

●ドイツ
 ドイツという国は、緑の党という環境問題を重視する政党が与党として活躍したこともあり、環境問題への取り組みが熱心な国として有名です。その結果、ドイツでは太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの移行を積極的に進めてきました。さらに2011年の東日本大震災の直後には、日本以上に原発事故の危険性を深刻に捉え、なんと2022年までに国内のすべての原子力発電所を閉鎖することを議会で可決しました。そんな地球に超優しい国がドイツです。

 その他の資源・エネルギー用語について解説します。

レアメタル
レアアース
コンピュータ機器の生産にはレアメタル(希少金属)、レアアース(希土類)が不可欠であるが、これらの採掘は、日本だけでなく世界中の国々が、アフリカ、中国、ロシアなどに偏っている。
原子力規制委員会 東日本大震災までは、原子力発電の安全性をチェックするために原子力安全・保安院が、原子力発電を推進する経済産業省の管轄として設置されており、チェック機能が果たせていなかったことが批判された。2012年に原子力安全・保安院は廃止され、環境省の管轄原子力規制委員会が代わりの役割を担うこととなった。
バイオエタノール サトウキビやトウモロコシを原材料にして作った植物性エタノールをガソリンに混ぜて利用するバイオエタノールが実用化されたが、サトウキビやトウモロコシを燃料用に回すことによる食料不足などが課題となっている。
地熱発電 主に火山活動による地熱を利用した発電方法。火山国である日本で注目されているが、観光地(温泉地)の環境破壊につながるなどの問題もある。
メタンハイドレート 日本近海の海底にはメタンが氷上になったメタンハイドレートの埋蔵が確認しており、新エネルギーとして実用化が期待されている。
シェールガス 地中深くにある貢岩(シェール)と呼ばれる硬い岩盤の隙間に閉じ込められた天然ガス。かつては採掘が困難であったが、アメリカで採掘技術が開発され、商業化が進められたことにより、アメリカが世界一の天然ガス産出国となった。
サマータイム制 日の出が早く、日没が遅い夏場に、時計を1時間早めることにより、夕暮れの電気消費量を節約しようとする政策。日本以外の先進国ではほとんど実施している。
デポジット制度 ペットボトルやビンなどを使った製品に、預託金を上乗せして販売し、製品や容器が返却されたときに預託金を返金することにより、容器の回収率を高める制度。
ISO14000シリーズ ISO(国際標準化機構)が認定した、環境に関する企業の標準規格。この基準を満たす企業は、環境に配慮した企業として認められることとなる。
ゼロエミッション 企業の出す廃棄物を、他の産業が原材料として利用するなどの方法により、生産過程で排出する廃棄物をゼロにしようとする試み。
コジェネレーション ガスや石油など一種類の一次エネルギーから、電気と熱を同時に供給する。

 普通の国民の感覚だと、「石油や石炭のように温暖化も進めるエネルギーでもなく、原子力のような放射能漏れの危険性もないクリーンエネルギーがもっと普及すればいいのに」と思います。しかし、欧米と比較すると、日本政府はクリーンエネルギーの普及・開発に消極的です。もし原子力発電をやめてしまえば、原子力発電技術の開発に関わってきた大企業が大きな痛手を受けます。電気自動車が普及してしまうと、ガソリン車の技術を発展させて日本経済を引っ張ってきた自動車会社が痛手を受けます。

 私が教員になりたての頃は、高い技術を持った日本企業が、今後、どんなクリーンエネルギー技術を開発するのか、期待をしていましたが、日本のエネルギー構造はここ30年ほどほとんど変わらず、むしろ後進国であったはずの中国に、電気自動車や風力発電の技術を抜かれてしまっている状態です。このことが、私には、日本が石油や原子力にまみれた高度経済成長期に自信を持ちすぎたために、次のステージに進めていないように見えるのです。

 とは言っても、エネルギー問題に関しては、どの国も正解にたどり着いていないのが実態です。テストの前日にならないと高校生が勉強しないように、このままでは、世界から完全に石油がなくなる直前、あるいは世界が滅亡する直前にならないと、人類は本気で新エネルギーの開発に取り組まないのではとすら思ってしまいます。

 この問題には、70歳を過ぎ、余命も少ない日本の国会議員の先生方には危機感が足りず、期待が持てません。ぜひ自分たちの未来を守っていくためにもぜひ、若い人たちが中心となって、新エネルギーの開発・普及に本気で取り組んでほしいと思います。

9.都市問題
 最後に都市問題です。日本の都市問題と言えば、過疎・過密の問題です。みなさん知っていますか? 東京都の人口は日本人口の10分の1です。みなさん知っていますか? 関東地方に日本人口の3分の1が住んでいます。みなさん知っていますか? 東京、大阪、名古屋の三大都市圏周辺に日本人口の半分が住んでいます

 テレビで、全国ネットの情報番組を見ていると、我々地方の人間にはおそらく行くことのない、渋谷や原宿のスイーツ店の情報が流れます。天気予報では、全国の天気の後に、関東地方の天気予報が流れます。最近、特に違和感があったのが、全国ニュースで、全国のコロナ感染者数の発表はしないのに、東京の感染者数だけが毎日発表させることです。ここまでくると、日本=東京であり、東京以外の人間は日本人と扱われていないのかと思ってしまいました。

 しかし、テレビ局側からすると、広島県の情報を流しても視聴者の2%しか関係ないですが、関東地方の情報ですと34%の視聴者が関連するわけですから、渋谷や原宿の情報を流したい気持ちはわかりますが、あからさまさすがに過ぎるといじけてしまいます。

 では、日本政府の都市計画を見てみましょう。

年号 事件 当時の首相 内容
1962 全国総合開発計画
(全総)
池田勇人 新産業都市を指定し、指定された都市を徹底的に開発していく(拠点開発主義)。
1969 新全国総合開発計画
(新全総)
佐藤栄作 全国を7つの広域生活圏に分け、高速交通ネットワークを整備して7つの地域ごとの開発を期待する。
1972 日本列島改造論 田中角栄 全国主要地方都市と首都圏を結ぶ高速交通網によって農村地帯にも工場を立地し、過疎・過密化を解消する。
1977 第三次全国総合開発計画
(三全総)
福田赳夫 工業化優先のこれまでの開発を反省し、住民が住みやすい都市づくりを行う(生活第一主義)。
1987 第四次全国総合開発計画
(四全総)
中曾根康弘 「定住」と「交流」を柱に、高速交通ネットワーク構想と多極分散型の国土を目指す。
1998 21世紀の国土のグランドデザイン
(五全総)
橋本龍太郎 太平洋ベルトに加え、北東国土軸、日本海国土軸、太平洋新国土軸の4つの国土軸が連携する多軸型の国土構造を目指す。


 これらの計画により、日本政府は日本中に都市圏を作り出し、地域を、日本経済を活性化させようとしました。

 例えば、全国に高速道路網を整備することにより、田舎と都市部の行き来を盛んにし、地方を活性化させようとします。これにより、本来の計画では、都市部から田舎に人が流れ、地方都市が成長することが期待されたのですが、実際には、都市から田舎に移動するよりも、田舎から都市に移住する人のほうが格段に多く、これらの都市計画により、確かに成長した都市もありましたが、結局は、成長した都市と、見捨てられた田舎の格差が大きくなってしまいました

●首都移転論
 1990年代後半には、日本の政治機能を東京から地方に移転する「首都移転論」が浮上します。例えば、アメリカは政治の中心は首都ワシントンDCですが、経済の中心はニューヨークです。中国も首都は北京ですが、経済の中心は上海です。あるいは、オーストラリアのキャンベラやブラジルのブラジリアのように、政府が意図的に首都を建設した例もあります。

 つまり、日本の首都を東京以外の場所に新たに作ることにより、東京に何でもかんでも集中するのを防ごうとしたのが首都移転論です。しかし、これには東京都が猛反対し、さらにバブル崩壊後の不景気で、政府としても移転するための莫大な費用が確保できなくなったため、いつの間にか立ち消えになりました。

 そんな中、政府の機能の一部だけでも地方に移転させる取り組みとして、文化庁が京都府に移転消費者庁が徳島県に移転する計画が発表されました。しかし、これらの機関だけが、地方に移転されてしまうと、他の機関との連携が難しくなるなどの問題があり、また、この2つの機関も「なんで俺たちだけが犠牲に?」という被害者意識が強く、猛烈に抵抗を続けている状態です。

●ドーナツ化現象・スプロール現象
 東京に人口が集中した結果、東京中心部では土地が高すぎて、都心には人が住めず、都心を取り囲むように住宅地が広がるドーナツ化現象が起きました。そして、高度成長期に作られた住宅地では、東京のオフィスに通うサラリーマンたちが住む家を、急いで作ったものだから、環境を破壊しまくって住みにくかったり、道が狭かったりと無計画な都市開発が行われたスプロール現象(スプロール=虫食い)も発生しました。そこには、日本の都市計画が、工場の整備などの産業資本の開発が優先され、住民の生活を考えた生活資本の整備が不十分であったことも原因としてあります。

 私は大学入試の時、東京の大学に通っていたいとこのアパートに泊めてもらいました。高校生の私にとって、東京で一人暮らしをするいとこはとてもかっこよく映りましたが、まるで映画のセットであるかのような狭い場所に、アパートもお店もぎゅうぎゅう詰めに立ち並ぶ東京下町の街並みに息苦しさも感じ、「わしは東京には住めんな」とも実感したのも覚えています。

 一方で、東京に進学した私の教え子のほとんどが、地元に帰らず、東京に就職します。そう考えると、東京に住み、便利さを感じてしまったら、地元に帰る気なんかなくなってしまうのだろうなというのも想像がつきます。一方で、東京のような場所では、人がたくさん集まっているにもかかわらず、人と人とのつながりは田舎よりも薄く、人の多い東京のほうが人の少ない田舎よりも孤独な人が多いのでは…という話も聞きます。

 どこに住むかは個人の自由ですが、私が思うに「便利=幸せ」とは限らないということです。東京で幸せな生活をしている人もいますし、地方で幸せな生活をしている人もいます。地方で生活し、東京の人たちに嫉妬している私としては、もっと東京への一極集中が崩れ、地方が元気になることを望んでいるのですが、地方の中には「魅力のない地方に強引に人を呼び込む」ような町おこしをして失敗するところも多いようです。それよりも「地方の魅力を理解してもらい、進んで地方に住んでもらう」ような町おこしがもっと増えてほしいです。

 みなさんに理解して欲しいのは「都会の生活=正しい生活」「田舎の生活=ダメな生活」ではないということです。東京の生活というのも、高度経済成長が作り出した、日本人の理想の生活なのかもしれません。しかし、多様性が求められる現代社会では、東京での魅力を残しながら、地方の生活も含め、たくさんの生活の選択肢が必要であるような気がします。これまた正解のない問題のような気がしますが、より多くの人たちが孤独から解放され、幸せな生活を送れるようにするために、都市・田舎両方がいい意味で発展して欲しいと思います。

2022年8月5日